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 麻生総理の盟友鳩山総務相の辞任、千葉市長選で民主党推薦の熊谷俊人氏(31)が全国最年少で当選し、民主党は名古屋、さいたまに続く三つの政令指定市長選で3連勝、麻生政権の行方はいよいよきな臭くなって来た。
 鳩山氏は過去3回の自民党総裁選で、麻生氏の選対本部長務めた盟友。しかし日本郵政の社長人事では、かんぽの宿の安売り問題で西川善文氏の続投に反対「国民共有の財産を無にする絶対に許し難い行為だ」として正義感から更迭前に辞任、西南の役で自刃した西郷隆盛の心境だったという。政治の世界では盟友も豹変するが、さて選挙区を転々としてきた鳩山氏は福岡6区から出馬するのやら。
 18日静岡知事選が告示された。7月3日には東京都議選が告示される。麻生内閣の支持率は20%を下回わり、政権運営は危険水域に入ったが、麻生首相は都議選の候補者の応援に躍起となっている。自民党最大派閥の町村派には6月末か7月初め解散、8月2日投開票の決断を促す声がある。たら、ればの質問には答えられないとは麻生首相の口癖だが、静岡知事選に負けたらどうします。来月8日から10日のイタリアG8サミットに出席したい、などと我がままを言ってられなくなるでしょう。
 このところ地方分権を叫ぶ知事諸氏が自らの支持政党を旗幟鮮明にする動きが急だ。国や国会に任せてられない、との意思表明だろう。国直轄事業の謂われもない地方負担金問題が拍車をかけた。何故地方負担金に国の職員の手当てが盛り込まれているのか、それが今ごろになって判明する政官の馴れ合い。
 民主党は官僚政治を打破する、という。消費税を上げないで無駄を省いて財源を捻出するとも。党首討論では軍配を上げるほど納得させるまでに至っていない。首相の求心力の低下と決断力の欠如が追い風になっている、とみるべきだ。政権選択の日は近い。(辰)

(21年6月22日号掲載)

 科学的捜査の代名詞だったDNA型鑑定への信頼が揺らぎ無期懲役が確定していた菅家利和さん(62)の刑の執行を停止し、菅家さんは服役先の千葉刑務所から釈放された。DNA型の再鑑定結果の不一致を受け、東京高検が「無罪を言い渡すべき明らかな証拠にあたる可能性が高い」とした意見書により、再審開始は確定的といえる。
 90年に栃木県足利市で当時4歳の女児が殺害された事件で、菅家さんは警察庁科学警察研究所が採用していたMCT118というDNA型鑑定と自白を証拠に00年、最高裁で有罪が確定。この次期のDNA型鑑定は1千人に1・2人の精度。今では4兆7千億人に1人まで良くなっている。弁護側は再鑑定を要求再審請求審で東京高裁が08年12月に再鑑定の実施を決定した。その結果菅家さんと一致するDNAは、1個も検出されなかった。
 一方、菅家さんが自白に至った取り調べ状況は、髪の毛を引っ張られ、け飛ばされ、「早くしゃべって楽になれ」と言われるなど過酷なもの。密室でこのような取調べを受けて堪えられるだろうか。
 5月21日から裁判員制度が始まった。わが国の刑事裁判の有罪率は99・9%。しかし一方で、捜査当局がつくった「自白調書」に頼ったための冤罪も繰り返してきた事への批判が、裁判員制度として結実した。同制度では公判前整理手続きで争点を整理し審理計画を立てる。検察官は全ての証拠を開示しなければならない。そこで重要なのが取り調べの録音・録画だ。容疑者が真実を話さない、とする検察・警察の言い分も分からないではないが、調書をめぐる争いが裁判を長期化させてきたことは否めない。
 最高検は旧来のDNA型鑑定をもとに立証した事件について、体液などの証拠品を保管するように通達する。「疑わしきは被告人の利益に」。科学は進歩する。万能ではないし偏重してもいけない。この事件は公訴時効の15年が経過した。菅家さんは17年半オリの中にいた。もっと早い決断が出来なかったものか、悔しい。(辰)

(21年6月11日号掲載)

 新型豚インフルエンザ対策本部が、症状が季節性インフルエンザと似ているとして対処方針を変更した。発生地域を拡大状況に応じて二つに分け、患者の急増地域では学校単位で臨時休校できるとし一般病院での受診や軽症患者の自宅療養を認めた。機内検疫は原則取りやめ、水際対策を縮小する。弱毒性と分かっていながら過剰反応してきた対応に、やっと終止符が打たれた。秋冬のインフルエンザ流行に備えた対策に重点を置くべきだろう。
 メキシコで初感染者が見つかってから北米に飛び火、その後世界43の国・地域に拡大し感染者は1万人を超えた。咳やくしゃみ、発熱、時には下痢、嘔吐が伴う症状を示した。この新型ウイルスは人の間で広がりやすいウイルスと鳥の間で広がりやすいウイルスが豚に感染し、豚で広がるウイルスと合体した後人から人へと広がり易いウイルスに変異したもの。新種なためワクチンがない。
 ところが季節性インフルエンザに使われている「タミフル」と「リレンザ」が意外な効果を示した。新型ワクチンが開発されるまでこれらの薬に頼らざるを得ないのかもしれない。わが国には3404万人分のタミフルと470万人分のリレンザが備蓄されていると言うが、医師の処方箋がないと買えない薬だ。
 さて新ワクチン開発だが、先進国と途上国の対立が表面化している。鳥インフルエンザのワクチン開発で検体提供国のインドネシアが、先進国の製薬会社が開発したワクチンが高過ぎて国内に行き渡らない、と検体提供を拒否している。製薬会社が利益を上げる事を優先し、提供国を省みないからだ。このままでは豚インフルエンザも二の舞になりかねない。
 世界保健機関は「ワクチンの無償供給や技術移転には知的財産権の問題があり、同機関の枠組みでは解決できない」として、国際的対応の必要性を認めている。193カ国が加盟していてもこの有り様、ボーダレスは地球が一つである、と言えないか、国連のあり方が問われている。(辰)

(21年5月28日号掲載)

 小沢民主党代表の遅すぎる辞任からの短期党代表選挙で鳩山由紀夫氏(62)が、岡田克也(55)を退けて四選を果たした。旧自由党との新党構想をめぐる混乱の責任をとって02年12月に辞任して以来の代表復帰、任期は来年9月まで。死語となった「友愛」を掲げ挙党一致態勢を目指す。
 唐突だった小沢氏の辞任は、政治と金所謂西松建設の献金問題で世論の批判に抗し切れず、党首討論をすっぽかしての敵前逃亡的行動だった。辞任に当たり「政権交代の目標を達成するには党内の結束・団結が不可欠だ」「私が代表にとどまることで挙党一致に差し障りがあるとすれば、それは本意ではない」と強調した。第一公設秘書が逮捕されて2ヵ月、検察の捜査が自民党に及ばず片手落ちの面もあり、納得がいかなかったとしても、世論を無視しては乗り切れない。小沢氏は献金問題の説明責任があることは明白だから、選挙前にキッチリ形をつけて欲しい。
 小沢氏の進退問題の呪縛から解き放たれ、マスコミが親小沢か、非小沢かとあたかも党を二分するかの論調だった代表選挙、地方議員や党友を巻き込んだ選挙を望んだ声もあったが、解散総選挙を視野に入れれば、今回は短期で良かったと思う。今から政策だ、マニュアルだでは間に合わない。骨子は出来ているはずだから、後は肉付けだろう。補正予算のようなバラマキ政策を国民は望んでいない。
 鳩山氏は霞ヶ関の無駄遣いをやめれば20兆円の財源の捻出できる、と言うが具体的でない。政策に優先順位をつけるべきだ。消費税をアップしなくてやっていけますか。借金を強いるより痛みを分かち合っても国民は納得するはずだ。次の総選挙は政権交代を目指すものであり、勝てば首相の座も現実味を帯びる。選挙は奇麗事だけでは戦えない。人事の選択を誤る事なかれ。(辰)

(21年5月21日号掲載)

 カラーテレビ、新幹線、地下鉄、首都高速。敗戦から19年で焼け野原から近代都市に生まれ変わった東京で1964年五輪が開催された。2016年の五輪開催に52年ぶりにまた名乗りをあげ、4日間のIOC評価委員の評価は「基本構想に感銘を受けた」「招致の意欲に溢れていた」と、まずまず。しかし、一つ目のハードルをクリアしただけで、10月のIOC総会での決定まで油断は禁物。08年夏季五輪招致で大阪市が北京に逆転惨敗した例があるからだ。
 16年の五輪開催には東京のほかシカゴ、リオデジャネイロ、マドリードが名乗りを挙げている。東京以外は初開催地。ましてリオデジャネイロは一度も開催されていない南米の候補地だ。かつて東京が「アジアで初の五輪を」と招致に成功した点を考えると強敵だ。
 五輪を開催すると都市再生の起爆剤になる事は、過去の事例で明らかだが、今回東京が名乗りをあげた理由はなんだろう。そもそも石原都知事は乗り気ではなかった。13年に国体を控え、続投するかも不明の状態。都民の開催支持も他の都市に比べ低く最低だ。
 きっかけは05年1月の仕事始めの席で、JOC会長の竹田氏が「16年、20年の五輪開催に向けて努力していきたい」と語り、まず福岡市が手を挙げた。しかしJOC内には東京でないと世界で勝てないとの思惑があり、日本体育協会会長で元首相の森氏の後押しで石原氏が受け入れた経緯があると言う。32対22で東京が代表に。
 評価委の調査は東京招致委の計画や財政状況を探るもので、開催能力という技術面に絞られるが、今回のプレゼンでは施設と交通アクセスは強調したものの、五輪運動やスポーツ界への貢献度という視点は弱かった、との指摘もある。環境対策としてのエコを強調して「我々は国連じゃない」と一蹴される場面があった。本命が勝てないジンクスがあり、オバマ大統領の切り札を持つシカゴ、サマランチ前会長の威光があるマドリード、当確までの道程は順風満帆ではなさそうだ。(辰)

(21年4月23日号掲載)

 何とも危ういわが国の危機管理が露呈した。北朝鮮が発射したミサイルの落下物で幸い損害を被ることは無かったが、「戦争ごっこ」を彷彿させる混乱振りとお粗末な対応は良い勉強になったろう。
 4日午前10時、朝鮮中央通信が「試験通信衛星打ち上げの準備が完了した。間もなく発射」と伝え、陸上幕僚監部の指揮所のコンピューターから飛翔体発射の誤情報が伝達された。それも二回。手段はメールとファックス。自治体の職員が紙切れを持って飛び回っている。発射が本当でしかもわが国を狙ったミサイルなら、既にわが国に着弾していた。たまたま遥か上空を飛来するミサイルの誤情報で胸をなでおろしたとは言え、見るに堪えない混乱振りだった。
 米国の傘の下に守られながらそれでも人並みにイージス艦を所有し、自前で開発したFPS5レーダー(通称ガメラレーダー)を備え、パトリオット3をお披露目したが、頼らざるを得ないのは米国の早期警戒衛生だ。ミサイルが発射されればその熱源を探知し、自衛隊に伝える態勢になっているのだが、今回はガメラレーダーの誤探知と指揮所の担当官の確認ミスという国を守る組織にあってはならない人為的ミスが目立った。ボタン一つの押し間違いが国を破滅させる危険を孕んでいる事を、もっと自覚すべきだ。平和ボケでは済まされない。
 翌5日、ミサイルはわが国上空を飛び越えて太平洋に落下したらしいが、北朝鮮は衛星軌道を周回していると言う。つまりあくまで通信衛星を打ち上げたと主張し、ロケット技術の確立をアピール、米国の意識を向けさせイランやパキスタンとの取引を優位にしたい思惑が透けて見える。
 理由はどうあれ今回の打ち上げは安保理決議に違反している事は明白だ。ロシアと中国は新たな決議の採択に難色を示している。核やミサイルに絡む技術や資材が行き来する世界に戻っては良いはずがない。オバマ大統領の「核を使用した唯一の核保有国としての道義的責任」への言及は素直に歓迎したい。アフガニスタンへの増兵がなければ評価が上がったろうに。(辰)

(21年4月13日号掲載)

 日本上空がきな臭い。来月4日から8日にかけて北朝鮮のテポドン2号が日本上空を飛来し、打ち上げに失敗すれば東北地方に落下する恐れがある。政府は自衛隊法82条の2に基づく「弾道ミサイル等破壊措置命令」を発令した。同条項の初の適用だ。
 北朝鮮は「人工衛星を運ぶロケットを発射する」と国際海事機関(IMO)に通知、98年に発射したテポドン1号と同じ日本列島を飛び越える軌道だ。人工衛星を搭載しようが核弾頭を搭載しようが運ぶ物の違いであってミサイルに変わりはない。安保理決議1718に違反する。
 今回の打ち上げはテポドン2号の改良型と見られ一段目は秋田県沖の日本海に落下、二段目は日本上空を飛び越えて太平洋上に落下するという。通報したとおりに飛べば破壊する必要はない。破壊は日本領土や領海に落下し、人命、財産に対する被害を防止する場合に限って行われる。
 命令は「日本に飛来する恐れがある」ときに閣議決定を経て防衛相が命じるケースと飛来する恐れはないが事態の急変に備えてあらかじめ防衛相の判断で命じるケースの2種類がある。国民に警戒を呼び掛け、シビリアンコントロール確保の観点から閣議決定を経た命令となった。
 過去二度の打ち上げは不意をついた打ち上げて幸い被害はなかったが、今回は周知の上でのこと、見過ごす事が出来ない。迎撃は日本海に配備したイージス艦に積んだミサイル(SM3)が大気圏外で破壊、失敗すれば地対空誘導弾パトリオット3が打ち落とす二段構えだ。しかし、SM3は実戦経験がなくハワイ沖での実験では標的を見失っている。打ち上げ日の数字の合計の末尾が「9」だった事がある。2009・4・4の合計は19。発射しない事を願うばかりだが、狂人に思い止まらせる手立ては無いものか。自滅するのを待つばかりではやるせない。(辰)

(21年3月30日号掲載)


 検察との対決で何度も這い上がってきた民主党代表小沢一郎氏。公設第1秘書で、同代表の資金管理団体「陸山会」の会計責任者の大久保隆規容疑者(47)が政治資金規正法違反(虚偽記載など)の疑いで逮捕され、「衆議院選挙が取り沙汰されている時の異例の捜査は不公正な権力行使だ」と批判、また特捜部と小沢氏の対決の様相になっている。
 今回の逮捕は、他人名義での献金や政党側以外への企業献金は禁じられているが、西松建設からの政治献金であることを知りながら同社のOBが代表をしていた政治団体から寄付を受けたように装い虚偽記載した疑い。しかしそれだけに止まりそうにない。癒着ともたれ合いが次々に暴露されている。
 パーティ券の購入や献金で二階俊博経済産業相、尾身幸次衆院議員、森喜朗元総理などの名前が上がり、皆声をそろえて返還するという。違法性がないのなら返還する必要がないのに、政治家というものは何とも奇妙な行動を取るものだ。情報が小出しなのか、小沢氏の元秘書の談合関与疑惑が出てきた。世論調査で小沢代表辞任を求める声が57%もあった。なのに会期中の国会では、与野党ともこの事件にダンマリを決め込んでいる。
 同じような攻防は過去にもあった。ロッキード事件で逮捕され上告中に死去した田中角栄元総理と東京佐川急便5億円違法献金から脱税容疑まで広がった金丸信元自民党副総裁の逮捕。どちらも小沢氏が師と仰ぐ政治家の政治生命を守ろうと奔走したが、守りきれず小沢氏の連敗になっている。
 しかし、一連の事件後に小沢氏は政権再編を成し遂げている。竹下政権の誕生、海部政権では47歳の若さで自民党幹事長に上り詰め自民党離党後は細川政権を樹立。田中・竹下派の金権体質を根っこに持ちながら、政治改革や政権交代を訴えてきた小沢氏の「二面性」が見て取れる。政権交代を目前にして母屋に火の手が上がった状況で、起死回生の一手はあるのだろうか。(辰)

(21年3月16日号掲載)

 何万語を費やしても一枚の写真(映像)に適わない事がある。「鏡よ鏡よ鏡さん、世界で一番醜いのは誰ですか」。我が身の醜態をテレビ画面で見た中川昭一前財務・金融担当大臣は愕然とした。この醜態は全世界に流れ、日本の恥じをさらした。画面を見なければ自分の行動が分からないほどノーテンキなのだ、と言ってしまえばそれまでだが、辞任する人はそれでけじめをつけた積もりでも、任命権者の麻生総理の責任と識見はただでは済まない。これまで支えかばってきた与党、閣僚も麻生下ろしに本腰を入れざるを得ないだろう。小泉元総理が定額給付金の法案再可決に欠席すると表明、きな臭さは度を増しつつある。
 舞台はローマで開かれた先進7カ国財務相中央銀行総裁会議閉幕後の記者会見。ろれつが回らず眠っている状態の中川氏、風邪薬の服用と少しのワインの“相乗効果”での醜態だったと、釈明したが誰の目にも酔っているとしか見えない。百年に一度の経済金融不安の対策を話し合った会議の重要性は認識していただろうけれど、中川氏には過去にも酒に溺れる精神的ひ弱さがあった。
 06年の政調会長時代には飲みすぎでダウン数日間出勤しなかったり、酩酊状態でホテルのロビーの柱や車にぶつかったり、農相時代には参院本会議で原稿を読む途中で言いよどみ挙句の果てに衛視に抱えられるように退席した事も。先月の財政演説では読み違い箇所が26カ所あり、前日酒を飲んでいた。酒癖の悪さは国会や省庁関係者の間では公然の秘密だったのに、麻生氏は即断で辞めさせる事が出来なかった。
 ましてや、今回随行した記者団の筆致はマチマチ、何のための随行なのか、記者とは何なのか、馴れ合いでは済まされないマスコミの態度も問われると思う。
 二転三転した中川氏の辞任までの経緯は、今の麻生政権そのものを曝け出している。万策尽き、裸の王様に引導を渡すのは、また小泉氏なのか、行き当りばったりの当て馬は勘弁してもらいたい。国民はバカじゃないぞ。(辰)

(21年2月26日号掲載)

 朝青龍の三場所連続休場からの復活逆転優勝で幕を閉じた大相撲にまた衝撃が走った。十両力士若麒麟真一容疑者(25)が、大麻取締法違反の疑いで逮捕された。若の鵬、露鵬白露山のロシア人3人が、大麻事件で解雇されたばかり。辞任した北の海前理事長に代わり協会刷新に取り組んだ矢先の武蔵川理事長の出鼻を挫かれた格好だが、解雇処分は果たして妥当だったのか、身内に甘い体質がチラホラ。
 力士暴行致死事件を受けて再発防止検討委員会が設置され、外部役員として元警視総監や元高等検察庁検事長などを起用しても続く不祥事、ドーピング検査で若麒麟は限りなく灰色だったと言う。協会と親方の手ぬるさがあった、としか思えない。
 事件後のコメントに協会を律する気持ちや弟子を心配する愛情は伝わって来ない。非情になってこそ事件の重大性が浸透するのだろう。その意味で今回の解雇は甘い。解雇されたロシア人力士との整合性を欠くとか元警視総監の吉野監事は「除名と解雇には、打ち首と切腹の違いがあり、簡単に伝家の宝刀を抜くべきではない」などと、結局、解雇に決まった経緯がある。
 解雇されれば養老金(退職金)はもらえるが、除名ではもらえない。解雇されて二度と再び相撲界に戻れるとは考えられないので、除名と同じに思える。まして本人は事の重大性に気づき、養老金を受け取らない、と言っている。同僚が解雇された後も大麻に手を出していたのだから、確信犯だ。”自覚”に比べ協会は生ぬるい。
 時代錯誤の発言もいただけない。伝家の宝刀とは何を意味するのか、過去に例がないだけでは済まされない。打ち首や切腹がこの時代にあろうはずがないのだから、比べようがない。協会の覚悟を示すべく毅然と処分すべきだった。(辰)

(21年2月12・16日合併号掲載)

 米国の第44代大統領にバラク・オバマ氏(47)が就任した。史上初めてのアフリカ系黒人大領だ。「今求められているのは、新たな責任の時代だ。それは一人ひとりの米国人が、私たち自身と我が国、世界に対する責任があると認識することだ」と述べ、米国の再生への自覚と参加を求めた。
 支持率80%を超え就任式には誕生を待ちわびた200万人がお祝いに集まった。国民の期待の大きさが伺えるが、政策のつまずきは反動の大きさを予兆させる。株価が祝儀相場をつけず逆に下落した。さほど世界経済は疲弊のどん底なのだろう。しかし、ここはオバマ大統領の手腕に託さざるを得ない。
 同じイリノイ州を地盤とするリンカーンを模範とし、就任宣誓に使用した聖書は1861年、リンカーンが使用したもの。人種や党派の分断を乗り越え、米国の統合を目指す。経済再生のプログラムは大恐慌に立ち向かったフランクリン・ルーズベルトを手本とする。経済政策委員長に起用したローマ―氏はニューディール政策の専門家だ。
 総額8000億j(72兆円)規模の景気対策。300万人の雇用創出柱は減税と公共事業。減税は中間層や低所得層を対象としたものが中心。企業減税も行う。公共事業は道路・橋といったインフラ整備、医療保険の拡充などだが、手始めは自動車ビッグスリーの対処がカギだ。
 外交問題も山積している。直面するイラクとアフガニスタンの戦争をどう処理するのか。力の論理をむき出しにしたブッシュ外交からどう決別するのか。ヒラリー・クリントン氏を国務長官に据え、「米国だけでは難題を解決できないし、世界も米国抜きでは解決できない」と、国際協調主義を語らせてもアフガニスタンへの米軍増派は説得力が無い。高機能携帯を駆使する電脳大統領らしいが、情報の選択を誤る事なかれ。(辰)

(21年1月26日号掲載)

 衆議院が解散しない
で年を越し2009年幕開けの知事選挙が、再選を目指す現職と新人の一騎打ちで戦われている。現職の斎藤弘氏(51)は、前回の
知事選で四選を目指す現職の高橋氏にわずか4000票差で辛勝、4年間の実績を評価して欲しい、と訴えている。片や新人の吉村美栄子氏(57)は女性知事誕生とチェンジやまがたを訴えている。
 政策の違いは何なのか。無駄を省く事ではたいした違いは無いが斎藤氏は4年間で県職員の人件費を200億円削減したと言い、吉村氏は副知事2人制と知事退職金の廃止を表明した。行政は県民に開かれていなければならないが、情報公開で96年最下位だった山形を4位に押し上げた、と斎藤氏は自負する。吉村氏は経済性、効率性だけが優先されてきた県政を転換して対話のある、心の通う県民の命と生活を守るあったかい山形を実現したい、と言う。
 それぞれがマニフェストを掲げ有権者に分かりやすく語りかけようとする姿勢は、評価できるが具体性にかける。ある種の標語のようでもある。煎じ詰めればたいした実績でもないし、希望的観測でしかない事が多い。
 選挙戦たけなわなのに水を指すようで申し訳ないが、いつ解散するかも知れぬ衆議院選の前哨戦を考えないではいられない。どっぷり浸かり抜き差しなら無い状態に陥れば、モトモコモナイ。旗幟鮮明にすべきか否か、国会議員の思惑を想像してみる。
 一方、成人になった若者に知事選に投票するか、アンケートをしてみたら、四分の一の人が行かないと答えた。「投票しても何も変わらないから」「分からない」。今年の成人に限った答えではない。権利を放棄し義務を忘れている国民が闊歩している。25日は投票日、意思表示をしよう。(辰)

(21年1月15日号掲載)

 来年度予算の一般会計の総額が88兆円を超え、当初予算ベースでは過去最高となる。基礎年金の国庫負担引き上げや景気対策の予備費上積みで膨らむと言うが、地方交付税が増えれば90兆円に達する可能性もある。歳出削減路線の転換だが、景気悪化の影響で国税収入があてに出来ないとなれば、赤字国債発行の借金地獄に舞い戻る。策がない。
 米国の金融危機に端を発した不況の波が世界を駆け巡る中、リーディングカンパニーのソニーとトヨタ自動車キャノンが人員削減を発表した。我が国は勿論世界に冠たる企業が経営が悪化したからといって、最後の手段である雇用調整に手をつけるとは、納得がいかないし情けない。あの2兆円の利益があれば企業資産はまだ安泰であり、人員削減に手を付けなくても何とかなりそうな気がするのだが。あまりに規模を拡大し過ぎたツケが回った、と言ったら的外れだろうか。
 地方分権改革推進委員会が、自治体が作る施設の基準を全国一律に定めたり、何かを決める時に中央省庁の同意求める義務付けを削減、8府省15機関の出先機関を統廃合し、国家公務員の1万人を自治体に移す、という第2次勧告を提出した。政府と自治体が同じような仕事をする二重行政の無駄や弊害をなくそうとする意図は分かるが、早速霞ヶ関から不満が続出、官僚と持ちつ持たれつの関係で戦後政治を仕切ってきた自民党政権のもとでは望み薄、まして迷走する麻生政権では不可能だ。行き当たりばったりの勧告など無いに等しい。
 民営郵政の経営の失敗が「郵政株式売却凍結法案」になって跳ね返ってきた。推進する民主、否決すれば郵政票を失いかけない自民法律で株式の売却が決まっているのに、行方が定まらない。経営陣の政治に左右されない姿勢を示すべきだ。
 道路特定財源の一般財源化が消え、地域活力基盤創造交付金に摩り替わる。地方が自由に使える資金に振り向ける、だったものが、地方に道路予算として回している7千億円の臨時交付金の名前を変え、規模を膨らませたものになる。閣議決定までしたものが覆る。
 今年を表す漢字は「変」であった。米国は大統領選挙で変革したが、日本政治は混迷のるつぼ。変の「亦」は糸がもつれる様を表し、もつれて違う状況になるのが変どれもこれも筋が通らぬヘンばかり。(辰)

(20年12月22日号掲載)

 麻生政権が誕生して2ヵ月で支持率が20%代に急落、選挙内閣と目されていたのに解散時期を失し、与党内からも見放されつつあるレイムダック(死に体)状況だ。三代続けて総理大臣が国民の信を問わず、政権発足時から失言、暴言で足を掬われないように危惧していたのだが、果たして“見事”に期待に応え
てくれたのであった。
 発言と言葉の使い方に政治家は神経質になるべきであって、責任が問われて当たり前の事なのだが、何故かしら発言が軽すぎる。まして漢字の読み違いなど恥ずべき事だ。間違ったら即、訂正すべきだろう。英語の発音に自信ありげだがこれもいただけないと言うのが、専らの噂だ。情け
なし麻生総理大臣。
 麻生総理の選択肢は何か。一つは解散総選挙で仕切り直しをし、国民の意思に沿った政治を目指す事であり、もう一つは補正予算案を早く通し、来年度予算案を編成して金融不安などの緊急対策を急ぐ事だ。麻生氏は前者を引き伸ばしこの間、得体の知れない定額給付金に血道を上げてきた。国民一人当たり1万2千円(65歳以上、18歳以下2万円)を支給する所謂バラマキ政策なのだが、60%以上が必要だと思っていない。竹下内閣の98年に6200億円の地域振興券が配布されたが、金細工で町興しをしたり、貯蓄に回ったりして、個人消費はGDOの0・ 1%を押し上げたに過ぎなかった、苦い経験があるにもかかわらずだ。支給業務は地方に丸投げ、事務経費だけで800億円かかると、総務大臣が見積もっている。これでも地方分権らしい。
 吉田茂首相の孫で地盤を踏襲(フシュウではない)したにもかかわらず、身から出たサビで裸の王様状態、こんな状態では未曾有(ミゾウユウではない)の経済金融不安に立ち向かえない。改める決断に憚る事なかれ。(辰)

(20年12月15日号掲載)

 航空自衛隊のトップ幕僚長が、日本の侵略戦争を否定する論文を投稿し更迭された。植民地支配と侵略を認めてきた政府見解に反し懲戒免職が相当と考えられるが、定年退職扱いで退職金が支給される。田母神(たもがみ)俊雄前航空幕僚長。珍しい名字だ。
 論文はホテル・マンション経営の「アパグループ」が募集、田母神氏のほかに応募者235人のうち、94人がかつて田母神氏が司令をつとめた小松基地所属の自衛官だった。田母神氏の論文が1位となり、300万円の懸賞金を受け取った。
 論文の要旨は@日本は十九世紀の後半以降朝鮮半島や中国大陸に軍を進める事になるが相手国の了承を得ないで一方的に軍を進めた事はないA我が国は蒋介石により日中戦争に引きずり込まれた被害者なのであるB日本はルーズベルトの仕掛けた罠にはまり真珠湾攻撃を決行する事になるC我が国が侵略国家だったなどというのは正に濡れ衣である、というもの。
 一々に反証を挙げて反論するスペースがないので割愛するが全体的に史実を曲げ、裏付け資料があいまいで一部を取り出して恣意的につなぎ合わせた稚拙な論文の類だと言える。審査員の見識を疑うがうがった考えをすれば自衛隊のガス抜きのために、切腹覚悟で書いた、書かせた確信犯の感想文とも言える。
 田母神氏が参考人招致でも公然と政府に異を唱えた姿は、シビリアンコントロール(文民統制)に反する。統幕学校の校長を務めた人だ。隊員教育までゆがめたとしたら、・・。なのに最高指揮官の麻生首相は更迭を指示はしたが、文民統制に踏み込んだ明確な態度を示していない。
 歴史認識は政府と国民が共有の議題として認識すべきだ。誤った解は正しい見解が出されない限り、修正されない。首相は今一度自らの口で公式見解を表明すべきだ。(辰)

(20年11月24日号掲載)

 イエス、ウイー・キャン(われわれはきっとできる)大合唱の末米国第四十四代大統領にバラク・オバマ氏が選ばれた。四十七歳。史上初の黒人リーダーである。05年1月に民主党の上院議員に就任してわずか3年10カ月国政経験未熟な大統領の誕生。アメリカンドリームを成し遂げたというありきたりの言葉では言い尽くせない米国の「変革」を望む希望と情熱、信念が勝利へと導いたのだ。
 オバマ氏は61年8月4日、ケニア出身の留学生バラク・オバマ・シニアとカンザス生まれのアン・ダナムとの間にハワイで生まれた。父バラク氏はハーバード大を卒業した後、母子をおいてケニアに戻り事故死してしまう。母は再婚してインドネシアに生活の拠点を移してしまうため、オバマ氏は祖父母の元で育っていく。小学三年生の時大人になったら大統領になりたい、とすでに作文に書いている。
 ハワイの名門私立校プナホウ・アカデミーに入学、この時酒とマリファナを覚え、コカインも服用した。ロサンゼルスのオキシデンタル大で2年過ごした後コロンビア大に編入政治学を専攻し反アパルトヘイト運動などに参加していた。卒業間際にコミュニティの組織化にかかわるコミュニティー・オーガナイザーとしてのキャリアを志し、この経験が政治家の原点となった。88年から91年までハーバード・ロースクールに通い、弁護士として働く傍らシカゴ大で教鞭をとる。96年イリノイ州上院議員に就任、00年連邦下院議員選で敗退するも05年唯一の黒人上院議員となる。
 一躍脚光を浴びたのが04年7月の民主党全国大会の基調演説だ。「おかしな名前の痩せっぽちの少年の希望です。つまり、大それた希望の事なのです」。バラクとはスワヒリ語で「神からの祝福」を意味する。希望がかなった今、米国の再生を願うばかりだ。(辰)

(20年11月13日号掲載)

 会計検査院が国の補助金について調べた12道府県の不正経理は、地方分権論議に水を指すものだ。06年度までの5年間で5億6千万円の不正処理をし、全てで何らかの不正が見つかったというから氷山の一角だろう。
 補助金は使途を定めない地方交付税と異なり、中央省庁が使途と使用基準を決め、自治体に配分している。不正経理の手口は架空の発注をし商品は受け取らず、支払った代金を業者にプールする所謂「預け」や県費で賄うべき出費に補助金を回す「はり付け」。アルバイト給料に充てた自治体もあった。愛知県では私的流用が確認されている。
 不正経理が後を絶たない背景には国からの補助金の使途が縛られ余れば減額されるため使い切る事に意識が働く。中央官庁の職員は返還されれば査定が甘かった、と思われたくない強迫観念から他の県に回す事もあると言う。どちらにしても使い切るためのカネなのだ。三位一体改革では国から地方への補助金の削減とその見返りに地方への税源移譲が進められたが、徹底されていない。
 地方分権論議が具体化するのが95年、この年地方分権推進法が成立。2000年に地方分権一括法が施行されている。03年平成の大合併が本格化し3千あった市町村が1800にまで減った。省庁と市町村の間にある県の存在意義が問われ始めており、道州制の導入に拍車がかからざるを得ないだろう。
 しかし、この自治体の体たらく、自浄作用がないばかりか議会の存在意義も問われかねない成り行き任せの馴れ合い行政。会計検査院も眠りが覚めやっと本来の業務をまじめにやった結果がこれでは先が思いやられる。公務員は税金を公正にしかも透明性をもって処理すべきなのに、ともすれば自分のカネと思い込んでいるフシがある。地方分権は何処に。(辰)

(20年10月27日号掲載)

 米国発の金融危機は世界を飲み込み混迷が尚続いている。「1世紀に1度の危機」と米連邦準備制度理事会のグリーンスパン前議長がそう表現するほど、惨状は深く大きい。日銀が初めて自国の通貨以外のドルを市場に供給したほどだ。しかし1929年の株価大暴落から始まった大恐慌ほどには至らない、と言うのが大方の見方だ。失業率が深刻になるほど落ちないためだ。
 危機の原因は、世界全体で過剰に発生した貯蓄が米国に集まり、米国の金融部門の借り入れが国内総生産に占める割合を押し上げ、金融資本市場の拡張の速度が実体経済に比べて速すぎ、異常に拡大した。サブプライム商品でバブルが弾け、住宅ローン債権や証券化商品の価値が分からなくなってしまった事による。
 金融機関救済の基準にも問題があった。米証券大手のなかでもベアー・スターンズを救い、リーマン・ブラザーズを見捨てた基準の曖昧さが、市場の疑心暗鬼を更に拡大した。
 米議会下院は金融救済法案を一度否決した。サブプライム危機が表面化するまで、証券会社は株価の高騰で絶好調、年間ボーナス55億円を手にしたトッブがいた。そんな金融機関の損失のツケを税金で穴埋めする事に有権者が納得しない、と判断したからだ。とは言えかつての日本がそうであったようにここは公的資金に頼らざるを得ない。同法案は修正後可決、75兆円の公的資金を投じて金融機関が抱える不良資産を政府が買い取る事になった。即決できるのが米国の強みだ。
 でも安心は出来ない。買値が高すぎると国民負担が膨らみ、安過ぎれば金融機関の損が拡大するので売り手が現れない。金融機関の体力勝負で淘汰されていくのだろう。米国がつくった専業投資銀行が事実上破綻したと見るべきだ。(辰)

(20年10月13・16日合併号掲載)

 第92代首相に麻生太郎氏が指名され、新内閣が発足した。衆院の解散・総選挙をどのタイミンングで実施するのか、が焦点となる。新政権への世論の期待が高いうちに早く打って出たいのが与党内の大勢だろうが、これまで高めに出る傾向にあった政権誕生時の支持率は、幾分低めのようだ。
 先の自民党総裁選のパフォーマンス遊説では、動員をかけたにもかかわらず有権者の数が減り、投票率も低めだった。笛吹けど踊らず、有権者は安倍、福田両氏の相次ぐ政権投げ出しで「もう騙されない」と、意思表示しているのだ。
 社会の木鐸を自認するマスコミだが、ミスリードはいただけない。まだ総理大臣が決まっていないのに衆院の解散・総選挙の日程が記事になった。現状では自動的に首相に指名されるとはいえ、麻生自民党総裁がこの記事に反発した。10月26日の投開票はない、とみる。麻生首相は初仕事で国連総会での演説を終え開会中の臨時国会の29日に所信表明演説をする。代表質問の後解散する、というのがマスコミの先走った読みだったが、流動的だ。
 福田氏が政権を投げ出してから世界の動きは目まぐるしい。米証券4位リーマン・ブラザーズの経営破綻と保険世界最大手の米AIGの経営危機に伴う金融不安、北朝鮮の核施設再稼動、汚染米の責任を取って太田農水大臣が辞任、社会保険庁の年金記録改ざん問題と、課題は山積している。極めつけは舛添氏の後期高齢者医療制度を見直す発言だ。選挙受けを狙った発言では済まされない。
 世襲政治家の多さで世界の格付けは一つ下がって18位。新内閣にも二世、三世議員を起用している。政界引退を表明した小泉元首相も後継に次男を指名した。国民に問う「信」を考えたい。(辰)

(20年9月29日号掲載)

 内閣を改造しながら臨時国会を招集せず福田総理が安倍氏に続きまた政権を放棄した。辞任の記者会見でも他人事のような“客観的”発言は健在、記者の質問に「あなたとは違う」と気色ばんだ。
 的を射た記者の質問はカメラの生々しい映像に匹敵する。先の答えは辞任会見の最後に中国新聞の記者に「国民にはひとごとのように聞こえる」と言われて、福田氏が放った何とも場違いで立場を分かっていないフレーズだ。捨て台詞にも聞える。インタビューアーの面目躍如だ。
 自民党総裁選には5人が立候補を表明。候補者予想で5日付け読売新聞政局インタビューに合点がいった。元財務相塩川正十郎氏は「麻生氏は非常にとんちが利く明るい人だが庶民から見ると、ちょっと雲の上の人かなと。発言にも十分注意してもらいたい」「与謝野氏は非常に信頼感があり、成熟してきている。だが、何となく暗い印象だ。もう少し明朗闊達になればすばらしい政治家になるが、国民にはちょっとなじみにくいかもしれない」
 「小池氏は、やらせてみたら面白い人。だが『本当はどんな人かな』という疑問が絶えず残る。非常に頭の切れる発想のいい人だが、政治的評価が高いとは思はない」「石原氏も優秀だが、国民の中には2世政治家や官僚への批判が強い。いわゆる2世属性ブルジョア属性を見られると不利な点がある」、と。老練さが光る。石破氏はこの時点で立候補予想外。小欄なりに評すれば「軍事オタクでマニアックな暗い印象だが、理路整然と話す語り口は説得力を持つ。明るさが欲しい」。
 民主党は小沢氏の無投票3選が決定。自民党総裁選は22日投開票24日に臨時国会召集新首相選出となる。冒頭解散か所信表明後か、有権者の半数以上が選挙を望んでいる。(辰)

(20年9月16日号掲載)

 大分県教委汚職事件の反省を受けて今年度の教員採用試験は不正がなく実施されたであろう、と淡い期待を抱きつつ、早急に教育委員会の馴れ合いもたれ合いの構図を断ち切る英断が待たれる。大分県教委では商品券や現金が当たり前のように使われて不正に教員採用が行われ、県教委事務局の現職、元幹部と小学校の校長と教頭が逮捕、不正に採用された教員が辞職するという前代未聞の事件だ。
 これまでにも教員採用や教職員異動をめぐる不正が暴かれた時、いつも教育委員会のあり方が問われてきた。それなのにまた、おざなりの委員会の存在がクローズアップしている。
 戦後、教育委員会法によって設置された教委は公選制だったが、政治的な対立の影響を受けやすいとして、56年に地方教育行政法が施行され任命制になった。任命制といっても選ばれる委員は地元の名士や企業経営者が多く、教育の“素人”。月2回の会議に参加しても口出しをしない名誉職になっているのが実態だ。一般人の教育委員が委員会全体を統制するレイマン・コントロールが機能しないのだ。
 教員は同じ大学出の先輩、後輩という環境が多く、しがらみに巻き込まれ馴れ合いになりがちだ。教員の子が教員になる世襲制も考えものだ。有能な人が教員になり誠実で熱心な教員が管理職になれるには、委員会事務局の言いなりにならない教育委員を見つける事であり、委員長の持ち回りを見直し、当事者意識と責任感を持たせたい。教委と首長が連携し住民から寄せられた課題の解決に務める。情報公開は当然だ。
 今回の事件を受けて教員採用の基準を公表する教委が増えたが、一部踏み切らない教委もある。師が誤れば子供は沿わない。学校崩壊が益々進む。(辰)

(20年9月1日号掲載)

 臨時国会召集日が9月中旬に決まった。内閣改造から二十日あまり、北京五輪で影が薄くなっていた国会が解散、総選挙に向けて波乱含みで動き出した。福田首相は8月下旬を望み、公明党は来年夏の都議選を視野に9月下旬を要望、中を取って9月中旬に決まったと言う。
 腑に落ちないのは内閣改造だ。先の総裁選で戦った麻生太郎氏が簡単に幹事長を引き受けた真意は何か。支持率低迷でニッチモサッチモ行かなくなった福田内閣が、起死回生の手段として改造に着手したのは分からなくもない。サプライズ人事で国民の目線を引き付けようとした結果が、麻生幹事長誕生だとしたら、あまりにも無責任で変わりばえしない旧態依然の自民党お家事情だ。
 「福田氏で選挙は勝てない」。与党内でも特に公明党はあかさまに福田おろしを匂わす発言が目立った。福田首相が重視するインド洋での海上自衛隊による給油活動延長は、臨時国会の目玉法案だが、これに対しても異論を唱え、最終的に幹事長交代につながる伏線となった。
 そうなると話は早い。森喜朗元首相の出番だ。森氏は麻生氏に副総理か幹事長への就任を要請、総裁選で福田氏を支持した森氏からの要請は、福田からの“禅譲”を意味していた。「麻生政権準備内閣」などと揶揄される所以である。
 改造された安心実現内閣の顔ぶれを見ると小泉内閣からの改革路線への決別がうかがえる。公務員制度改革で奮闘した渡辺喜美氏が去り、郵政民営化反対派急先鋒の野田聖子氏を起用。舛添氏が残留したが既に官僚に取り込まれた大臣と言われている。官僚代弁内閣の色は濃い。
 火中の栗を拾った麻生氏、臨時国会での新テロ特措法案の扱い次第で政権交代もあり得る。(辰)

(20年8月28日号掲載)

 八年ぶりの日本開催となった主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)は、主要八カ国(G8)だけでは解決策を見出せない現状を浮き彫りにした。議長国としてリーダーシップを発揮するチャンスだった福田総理は、議長会見後小さなガッツポーズをして見せたがそれほど成果があったとは思えない五里霧中のサミットだった。
 環境サミットと言われた今回のサミットは地球温暖化対策に時間が割かれ、2050年までにG8は世界全体で温室効果ガスを半減させる事に指導的役割を認識し、野心的な中期の国別総量目標を実施するが、中国やインド等の新興国からは数値に触れない形で支持を取り付けたに過ぎない。2013年後のポスト京都議定書の枠組み作りに直結する中期目標が、曖昧のままでは新興国を説得しきれない。次期枠組みの合意を目指す気候変動枠組み条約の国際会議まで一年半、早急の対応が求められる。
 米サプライム住宅ローンで暗転した世界経済は、原油、食料の価格高騰で世界的にインフレ傾向にある。「ボトム・ビリオン」とは1日1ドル未満の収入で暮らす途上国の最貧困層10億人の事だ。食料高騰の対策としてG8は1兆円以上の緊急支援を表明。それが届く間にも小麦やトウモロコシは値上がりし、肥料や種子の値段も上がり増産は難しい。バイオ燃料への穀物の転用や農業国の輸出規制と投機マネーが、世界を覆う複合的な経済危機の原因だ。その規制対策に切り込めず二時間で終了したという。
 G8各国の利害の対立と新興国との溝の深さは、サミットの枠組みの制度疲労を示していないか。中国、インド、ブラジル、メキシコ、南アフリカの新興5カ国を加えたG13のサミットが秒読み段階にある。地球再生はさほどに厳しい。(辰)

(20年7月24・28日合併号掲載)

 北朝鮮のテロ指定が解除表明され、45日後に最終判断される。アメリカ政府が指定解除する恣意的なものでブッシュ大統領の花道を飾る外交成果と見る向きが多い。日本は拉致問題解決と核計画解除をセットに6者協議に臨んでいる。ブッシュ大統領が日米首脳会談後「決して忘れない日本を見捨てない」と述べても、指定解除されれば息を吹き返す北朝鮮は拉致問題を反故にするだろう。
 このテロ指定は大韓航空機爆破事件を受けて88年1月に指定された。武器や関連品目の輸出・販売の禁止、国際金融機関の融資がストップしていた。大統領が議会に通告し、将来もテロを支援しないなどと保証されれば、正式解除される。
 しかし、今回北朝鮮が提出した核計画の申告書はプルトニウムの生産に関する計画と施設にとどまり、核兵器や核実験場など軍事分野の情報は削除されている。イランの核開発に北朝鮮が関与しており、きな臭さは増している。先日寧辺にある原子炉の冷却塔を爆破して見せたものの、既に無能力化されたもので、爆破しても3〜6カ月で再建可能な代物。「政治的ショー」に過ないように思えた。
 ブッシュ政権内では対北朝鮮強硬派のチェイニー副大統領の影響力が衰え、ライス国務長官とヒル次官補の融和派が優位に立ち、政権交代を控え北朝鮮非核化という実績作りを重視した結果が、今回の指定解除表明になった。米国を取り巻く国際環境はドル叩きにあるという。ロシア、EU、中国はもちろんサウジアラビアもドル本位制から脱却しようと動き始めている。
 さて、我が国はどこまで米国頼みの外交を続けるのか。我が国は日米同盟で守られ、経済大国にのし上がった。大国なら自力で解決する能力が問われる。今回の指定解除で日米だけでは解決できない限界が見えてきたような気がする。(辰)

(20年7月14日号掲載)

 野党三党が参議院で抜いた「伝家の宝刀」の首相問責決議案は竹光に過ぎなかった。今国会会期末ギリギリに提出して可決したものの法的拘束力はなく、福田首相に黙殺され逆に衆議院で首相信任決議案が可決された。通常国会は閉会し与野党の対決も解散総選挙のムードもしらけ気味だ。
 首相問責はこれまで28回提出され、54年4月の吉田首相に対する造船疑獄に関するものが最初。今回は初の可決となるが「ねじれ国会」の産物だ。問責決議を書き込んだ法律はないが「内閣は国会に対し連帯して責任を負う」とする憲法66条に基づいて、参院が首相に政治責任を問う手段と考えられている。
 政治は生き物であり政権交替はタイミングだ。これまでも世論が後押しし局面を打開してきた。問責決議案提出にはこれまで3回のチャンスがあった。1月の補給支援特別措置法が57年ぶりに衆院で再議決された時。4月にガソリン税の暫定税率を復活させる税制改正関連法が衆院で再議決された時。5月の道路整備財源特例法が衆院で再議決された時。
 だが民主党は予算審議や国会空転を恐れて見送った。ガソリン再値上げは国民生活に直結する問題であり、値上げ決定後の世論調査では民主党が第1党となり、首相問責なら衆院解散・総選挙を望む声が6割にのぼっていた。この場面で問責決議案を提出していたら伝家の宝刀は文字通り政局を一刀両断に断ち切っていただろう。  隣国韓国では米国産牛肉問題で国民が怒り政権が破綻しかねない状態だ。国民の怒りはさほどに大きい。かつての安保運動をほうふつとさせる。自民党は支持率が低迷し、山口補選、沖県議選の敗北で動きが取れない。政局は洞爺湖サミット後の9月に動く公算が大きい。国民は民意を問う日に備えよう。(辰)

(20年6月26日号掲載)

 「省益あって国益なし」と言われる省庁の縦割り行政にメスを入れる公務員制度改革の基本法が、与野党が歩み寄り修正し成立した。同法は今後の手続きや改革の方向性、時期などを定めた手続法であり、制度設計は今後の議論にかかっているという何とも悠長な国会運営である。
 制度改革は前の安倍内閣の目玉政策として着手、天下りの根絶、能力・実績主義の導入を目指していたが、天下りには手を付けず人事を一元化する内閣人事局の設置、政官接触の記録の作成・公開による透明化、キャリア制度の廃止が主になっている。
 民主党は「天下り禁止」と「労働基本権の拡大」の2点の修正要求が受け入れられない限り政府案に反対する方針だったが、政権交代後に天下り禁止を実現すれば良いとし、非現業の公務員に認められていない協約締結権で政府案が「措置する」と表現を強めた事で折り合った。
 民主党はこれまで年金問題、後期高齢者医療制度では財源の確保は無駄な歳出を削減する事が先決とし、天下りによる公共事業の随意契約を槍玉に挙げてきたはずである。キャリア制度が廃止されれば肩たたきと呼ばれる早期勧奨退職がなくなり、天下りは減るかもしれないが、効果は期待薄だ。政権交代は時の運、民意に棹差す事は禁物だ。
 制度改革の今後の流れだが、7月に改革推進本部が内閣に設置され、09年に「内閣人事局設置」のための内閣法改正案を国会に提出11年国家公務員法改正案提出、13年に新しい公務員制度がやっとスタートする運びだ。
 あと5年待てば日本の将来に禍根を残さない制度改革が見られるのか、5年も待たなければ制度改革は出来ないのか、いずれにしてもやる気、本気が見えない国会でした。(辰)

(20年6月16日号掲載)

 道路特定財源を10年間維持する特例法改正案が衆議院で再可決されたのを受けて、止まっていた地方の道路工事が始まった。地方道路整備臨時交付金の目途がついたためだが、今年度は6825億円がつぎ込まれる。財務省のチェックを受けず国交省が道路整備に自動的に使え、地方に配分されるもので、85年度につくられ、ガソリン税の暫定税率と同様延長を繰り返してきた。
 交付金の財源はガソリンにかかる揮発油税収入の4分の1、都道府県市町村道整備として原則55%を補助して
いる。この法案の再可決は参院で否決されたのを受けてのものだが51年のモーターボート競争法、今年1月の新テロ対策特別措置法に次いで3件目。小泉首相が郵政民営化を問うて得た議席数で押し切った。
 同時に福田首相は道路特定財源を09年度から一般財源化する方針を閣議決定した。税収が道路整備だけに使われる仕組みを見直す事で、無駄な道路をなくす事が狙い。しかし一般財源化すれば本来の税率に上乗せしている暫定税率は根拠を失いその税収で10年間維持する特例法案と矛盾する。
 小泉首相の「骨太の方針」の閣議決定や安倍首相の閣議決定でも一般財源化は骨抜きにされてきた。5月初めの世論調査で福田内閣の支持率は20%を割り込んだ。道路族は「地方が大事」と動き出し国交省幹部も「交付金の延命は可能」と示唆している。一般財源化が造反組をなだめるための甘言だとするのはうがち過ぎだろうか。骨抜きになるのが目に見えている。
 福田首相が「国民の目線」「生活者の立場」を重視する、と唱えてみてもゴールデンウィークの真っただ中でガソリンを値上し、後期高齢者医療制度で痛みを強いた。そろそろ民意を問うてはどうだろう。 (辰)

(20年5月26日号掲載)

 中国の国家元首として10年ぶりに来日した胡錦涛(フーチンタオ)主席が、「戦略的互恵関係の包括的推進」という共同声明を残して5日間の訪日を終え、帰国した。胡主席はチベット問題で国際社会の批判を浴び、福田首相は内閣支持率が下落するなど、共に「内憂」を抱え成果を得たかったが、懸案についての 具体的解決策を見出すには至らなかった。
 10年前に来日した江沢民主席の時は小渕首相との間で「平和と発展のための友好協力パートナーシップ」をうたった共同宣言をまとめたが、歴史認識で日本の謝罪が明記されなかったため、署名が見送られた経緯がある。両首脳が署名し、発表した共同声明は72年の日中共同声明、78年の日中友好平和条約に次ぐものだ。
 靖国問題をめぐる対立で冷却していた関係は06年の安倍首相の訪中、昨年の福田首相の訪中を経てやっと定着してきたかのように見える。今回は過去の戦争に関する謝罪や反省には触れず、戦後日本の平和国家としての歩みを評価した点は意義がある。更に両国は世界の平和と発展に対し大きな責任を担っており、重要な国際問題で協調する、とうたった。今や中国は政治・経済両面で台頭著しく、日本にとって安定した日 中関係は必要だ。
 共同声明は出発点にすぎない。どんなに美しい言葉が並んでいても、大事なのは現実の政策に反映できるかどうかだ。東シナ海のガス田開発問題は政府が言うほど解決に目途が立っただろうか。中国製冷凍ギョーザ中毒事件は、福田首相の「断じてうやむやにできない」との発言に、胡主席の真相究明への意欲を感じなかった。チベット問題についてもしかり。胡主席には8月の北京オリンピックとその後の上海万博の成功という思惑が透けて見える。(辰)

(20年5月15日号掲載)

 内臓脂肪症候群(メタボリックシンドローム)健診が四月から始まっている。高齢化で膨らむ医療費抑制のため、40〜74歳を対象に年1回の実施が義務化づけられた。内臓脂肪の蓄積によりホルモンのバランスが崩れ、高血圧、高脂肪、高血糖などの異常から生活習慣病といわれる動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中を引き起こすといわれている。
 これまでの健康診断では血糖値や中性脂肪が飛びぬけて悪くなければ無視する人が多かったし、逆に一つ一つの数値の悪さを病気ととらえ、薬に頼り過ぎる人もいた。健診後の対応を本人の裁量に任せ、健康指導や医療によるフォローアップが出来ていなかったためだ。
 今度の健診は基準値を基に判定し、積極的支援(メタボ該当者)、動機付け支援(予軍)として医師や保健師から面接やメールなどで食事や運動の仕方などで生活習慣の改善を指導される。健診や指導の達成状況に応じて、保険者が国に拠出する後期高齢者医療制度の負担額が10%の範囲で加算・減算される。
 判定基準は腹囲で男性は85a以上、女性は90a以上。@空腹時血糖値100r/dl以上A中性脂肪150r/dl以上B血圧上130mmHg以上または下85mmHg以上。
腹囲が基準値以上で@〜Bの内二つ以上該当すれば積極的支援となり3ヶ月以上の指導を受ける。該当が一つであれば動機づけ支援で最低一回の指導を受ける。ただし腹囲が基準値を下回っていてもBMI(体格指数=体重÷身長÷身長)が25以上でも対象となる。
 腹囲やBMIが基準値以下であれば血糖値や脂質、血圧の数値が悪くても保健指導の対象にならないのはおかしいし、やせ型の糖尿病や高血圧の人もいる。BMIの追跡調査では男女ともやせている人の死亡率が高かったという、結果もある。数値が全てではない事を知っておこう。(辰)

(20年4月24日号掲載)

 新年度からスタートした75歳以上の1300万人を対象にした後期高齢者医療制度に苦情や相談が殺到している。仕組みが分かりにくいうえ保険料を年金から天引くやり方に「年金記録問題が片付かないのにどうして天引きできるのか」と不満噴出。一部では保険証が届かなかったり、間違った徴収をしている自治体もあり、年金の二の舞の様相を呈している。
 ボーダラインが何故75歳なのかはっきりしないが、病気になりやすく医療費がかさみがちな高齢者をひとまとめにして、高齢者の医療費のために誰がどのくらい出すのかをはっきりさせるのが狙い。
 これまでは75歳以上の人でも勤めていれば政府管掌健康保険、共済組合、健保組合にその他の人は国民健康保険に加入。医療費は現役加入者が払う保険料を一緒にして拠出金として支払われていた。
 このままでは高齢者と現役の負担割合がわかりにくい、として問題提起され、75歳以上をお金と制度面で切り離す事にした。
 新制度は65歳以上74歳までの寝たきりの人も対象。保険料は全国平均月6千円程度。高齢者自身の患者負担分1割を除く保険からの給付費のうち税金で5割、高齢者本人が払う保険料で1割、現役世代からの支援で4割を賄う。年金支給額が年18万円以上あれば年金天引きの対象になり、国保から移る人は四月から、健保などからの人は十月からの天引きとなる。
 会社員の息子の扶養家族として保険料を払ってこなかった人は、保険料徴収を半年間延期し、その後半年間は9割削減する。保険料を一年以上滞納すると窓口で一旦全額払わなければならない資格証明書が発行される。申請すれば保険分は戻ってくる。なんとも複雑だ。もっと早くから周知徹底すべきで、長寿医療制度と呼び替えても本質は変わりませんよ舛添大臣。(辰)

(20年4月14日号掲載)

 サブプライムショックによる欧米の金融市場の動揺が続くなか日本銀行総裁のいすが戦後初の空席となった。上席副総裁の白川方明氏が20日から職務を代行した。審議委員から総裁のほか西村清彦氏が副総裁になって抜けたため、定員9人の政策委員のうち2人が欠ける異常事態だ。
 日銀総裁はいわゆる金融の司令塔、民間金融機関との取引や行内人事の決済、日銀券(お札)の押印、金融政策決定会合の議長として議論を取りまとめるほか全国支店長会議、日本経済の中長期展望を見通す役割を担う。4月中旬にワシントンで開かれる主要7ヶ国財務相・中央銀行総裁会議に出席する。
 この人事案の迷走した原因は何か。提出期限が遅かった事、政争の具になった事、首相の決断力不足だ。参議院で同意されないと予想されながら提示し民主党が「財政と金融分離論」で反対しているにもかかわらず二度も元事務次官を総裁候補として担ぎ出している。福田首相の旧大蔵・財務への執着が事態を悪化させたと言える。民主党は新年度予算案の強行採決で対決姿勢をあらわにし、武藤氏を同意しない理由が「ミスター財務省」だからという。総裁候補の国会所信聴取では通過儀礼の質問で終わった感がある。
 人事案件は衆参両院が同意しなければ白紙になる。97年の日銀法改正で衆議院の優越性がなくなった。政府の総裁人事案が国会で同意されない事態を想定しなかった自民党一党支配のおごりの結果だ。
 今回の総裁人事の成り行きに国内外から「国際社会に醜態をさらした」「総裁代行では各国トップと真剣な議論が出来るか不安だ」「国家の恥じ、国際的な不安と政治的な重荷になった」と、視線は厳しい。在任半年、福田首相の決断の遅さ手際の悪さが目に付く。(辰)

(20年3月24日号掲載)

 防衛大臣は辞任すべきか否か、イージス鑑がマグロ漁船に衝突した責任の取り方で世論が割れている。幾分辞任不要論が多いようだ。任命権者の福田首相は防衛省の改革の手腕をかって、石破大臣の続投を表明しているが、この事故の情報が迷走し、釈明も二転三転、目に余る防衛省の混迷振りの責任は、いずれどこかで取らなければ示しがつかない。それが上に立つ者の責務だ。品格の問題でもある。
 過去には潜水艦「なだしお」と釣り船が衝突し30人の犠牲者をだした時の瓦防衛庁長官、防衛庁調達実施本部背任事件の額賀長官の辞任例がある。昨年、省に昇格したのに元事務次官の汚職、インド洋での給油量隠蔽疑惑、護衛艦の原因不明の火災、そして「あたご」の衝突事故。過去の反省は活かされてきたのか疑問だ。大臣はお飾りで辞めても省庁の組織には痛くも痒くもないのだ。
 それにしてもである海の要塞にも例えられるイージス鑑が、何故漁船を確認して回避出来なかったのか。数百<CODE NUM=0122>圏内にある200の目標を同時に捕らえて攻撃でき、上空から海面、水中まで見通す目を持ちながら。邪悪と災厄から身を守る盾を意味するイージスだがこれまでの事情聴取から考えられる事は、人為ミスの一言だ。自衛隊の組織に有ってはならない、無くして貰いたいミスなのだ。情報が迷走し、指揮系統がバラバラでは優れた武器を持っていても対抗出来ない。そんな自衛隊に国民の命を預けられない。
 石破大臣は背広組と制服組を統合する案を提唱しているが、省内では不評という。元事務次官の汚職後設置された防衛省改革会議でも組織改編だけでは不十分の声も出た。防衛省の事故後の対応に潜む問題の本質をあぶり出すと共に首相が最高責任者である自覚を持つべきだ。(辰)

(20年3月10日号掲載)

 福田首相が打ち出した「消費者が主役とる社会づくり」が旗揚げする前に中国製冷凍ギョーザの中毒事件が起きた。兵庫県と千葉県で中毒が起きてから厚生労働省に連絡が遅れ、1ヵ月後に公表された。輸入元の本社がある東京都にはファクスの送信ミスで大事な情報が伝わらなかった。警察と保健所、自治体と厚生労働省間の情報伝達の悪さを浮き彫りにした。
 そこでこのほど「消費者行政推進本部」の設置が動き出した。岸田国民生活担当相が中核となって取り組む。消費者行政を一元化することで、事故やトラブルが発生した時、消費者がどこに相談すればよいか悩まなくてすむし、役所間の情報を共有できれば被害の拡大を防げるものだという。
 ところで国内に出回る冷凍食品は約4千種一人当たり年間21`あまりを消費している。ギョーザのような調理冷凍食品の輸入量は97年の約8万5千dから06年は31万5千dと4倍増。輸入大国なのに今回のギョーザ流通を止められなかったのは具材が入り混じった加工品については、大腸菌などや添加物しか検査せず、残留農薬の基準が品目ごとに決まっていて、ギョーザの具では原因の特定が困難だったからだ。現在の検疫体制を改め、残留農薬の検査体制を構築する事が最優先に求められるべきだ。
 我が国の食料自給率は先進国では最低水準の39%だ。主食の米作りは減反の憂き目に会い小麦、大豆は輸入に頼っている。バイオ燃料ブームで穀物の受給が逼迫し、パン等の値上げが続いている。自給率が低ければ低いほど外国の影響は受けやすいのは必至。食の安全は自給率のアップに尽きる。冷凍食品に頼る生活スタイルを変え地産地消とスローフードに心掛ける事で、ひとまず不安を解消したい。(辰)

(20年2月21日号掲載)

 ガソリンにかかる揮発油税の暫定税率を定めた法律が三月末で期限切れになるのを前に与野党の国会論戦が熱を帯びている。政府・与党は10年間は維持し道路整備中期計画で59兆円の整備費を見込んでいるが、民主党など野党は撤廃し、特定財源ではなく一般財源化を主張している。
 揮発油税のほか地方道路税、軽油取引税、自動車取得税など6種類の税が本来の税率に上乗せされた暫定税率で運用され、道路整備に使う特定財源として特別扱いされていた。うち5種類が4月末までに期限が切れる。身近なガソリンは25円安くなり、国民は歓迎したいところだが、財源が減れば道路事業費を国に頼る地方自治体は予算を当てに出来なくなる。
 そもそもこの制度の創設は、戦後復興の1954年にさかのぼり景気や財政事情に左右されずに道路予算を安定的に確保するのが狙い。当初は揮発油税だけだったが、6種類まで対象を増やし道路予算は拡大し続けた。国庫にいれず与党の道路族の利権と無駄遣いの温床になっている。暫定税率はオイルショックの74年に二年間の時限措置としてスタートし35年も続いている。
 その根深さは自民・公明両党が先に暫定税率を五月末まで延長する「つなぎ法案」を議員立法で提出、衆議院委員会で可決したものの議長斡旋で撤回するという珍事に表れている。
 ここは半世紀も過ぎた特定財源の制度を見直し、複数の税を一括盛り込むような法案ではなく、必要な税は一つ一つの措置法で成立させる。暫定であればいずれは日切れになるのだから一時、値下げ値上げの混乱が有っても国民はうろたえてはいけない。税の必要性と透明性を見極め、何が国民重視の政治なのか、来る選挙に意思表示しよう。(辰)

(20年2月11・14日合併号掲載)

 1月1日、地球の温暖化を食い止める京都議定書がスタートした。二酸化炭素などの温室効果ガスの排出削減を義務付けるもので、我が国は1990年より6%減らさなければならない。 欧州では二酸化炭素が株式のように取引される排出権市場に1d当たり3700円の値がついた。ネットや電話で千d単位で注文が入り、1日で数億ユーロが動くと言う。市場原理を温室効果ガス削減に生かそうという考えは、97年に採択された京都議定書に盛り込まれていたのだが、EUが世界に先駆けて実施した。
 我が国は削減目標6%の内1・6%、約1億dをこの排出権購入で賄う計画だ。省エネ技術最高レベルの我が国は、今以上の削減は難しく、排出権を買うしかないのだが「買っても売る場がない」と経団連は導入に積極的でない。やっと土俵に上がり削減目標で足並みをそろえない米国でも、全米50州の半数が排出権取引を導入する計画だ。技術力も資金力もある我が国にためらう理由はないはずだ。
 温暖化との闘いは核兵器廃絶の闘いと共に今世紀の主要テーマだ。原油は70年弱で枯渇すると言われ、原子力の安全性は確約されていない。地球をこれ以上破壊し荒廃させないために太陽光発電、バイオガスや風力、水素と酸素で発電する燃料電池への移行所謂低酸素社会の選択の時なのに遅々として進まない。
 カーボンオフセットの仕組みをご存知だろうか。自分が日常生活で出した二酸化炭素を帳消しにする制度で、二酸化炭素を削減する費用を運賃やごみ処理費用、水道料金などに上乗せして支払うというもの。
 政府の規制を待つのか業界の自発的な排出抑制に期待するのか、ここは国民一人ひとりの自主性を尊重したい。(辰)

(20年1月17・21日合併号掲載)

 「最後の一人、最後の一円まで確実に給付につなげる」と言った桝添厚生労働相が、宙に浮いた年金記録を3月末までに解明できない記録が1975万件にのぼる、と公表した。参議院選の公約でもあった記録の解明は、選挙のスローガン的に言った事と開き直る会見に、政治家の言葉の軽さがまたしても浮き彫りになった。 基礎年金番号に未統合で持ち主の分からない約5千万件のうち年金番号と結びつく可能性のある記録が1100万件、新たな給付に結びつかず対応の必要のない記録が1550万件、氏名補正中の記録が470万件、残りが結婚で氏名を変えたり死亡したり、入力ミスで照合出来ない記録だ。ずさん極まりない仕事振りに怒りが収まらない。 問題はまだある。記録と結びつく可能性があるとしても、本人が申し出の手続きを取らない限り宙に浮き続ける事になる。社会保険庁は850万人に「ねんきん特別便」で加入記録を知らせる、と言うが成功する保証はない。97年に基礎年金番号を導入した際も照合に手間取り、9年間かけても3割から返答がなかった前例があるからだ。 また公的年金の加入期間が受給資格の得られる25年に満たず無年金となっている人や今後加入を続けても受給権を得られない人が推計で118万人に上る事も分かった。照合作業はマンパワーにかかっているとはいえ、今のままではおぼつかない。ここは校正を専門職としている校正業者に委託し解明に当たるべきだ。 もっと大事な年金制度の骨格がまだ決まっていない。保険料を固定し年金水準を削減する今の制度か基礎的な部分は最低保障年金として税で賄うのか、与野党の考えは食い違ったままだ。経済大国の安心が欲しい。(辰)

(19年12月20日号掲載)

 収賄容疑で逮捕された前防衛事務次官守屋武昌容疑者の暴走と腐敗が次々に明るみになっている。刑法65条の身分なき共犯として逮捕された妻幸子容疑者の夫に勝る女帝ぶりも見事だ。「似た者夫婦」のカガミだ。小池百合子前防衛庁長官が守屋容疑者を更迭しなければ、防衛腐敗はいまだに明るみになっていなかっただろう。更迭劇の真実を語る責任がある。何故ならシビリアンコントロール(文民統制)に縛られているからだ。

 それは政治が軍事を統制する事或いは政治の軍事に対する優位を定めた制度を言い、我が国では第2次世界大戦の反省から、自衛隊はその統制の下に置かれている。現憲法で内閣総理大臣及び国務大臣は文民でなければならず、文民とは@旧陸海軍の職業軍人の経歴を有し、軍国主義思想に深く染まっていなくA自衛官の職にない者を言う。自衛隊も法律予算について国会の承認が必要である事は論を待たない。

 事務次官人事で抵抗した際の守屋容疑者の驕慢な態度は文民統制に違反する行為だ。防衛省では下位にある防衛官僚の文官(背広組)が、文民の政治家よりも優位に立っている。制服組の武官も文官も不勉強な政治家を信頼しなくなり、内輪で防衛秘密を管理する体質を育ててしまい、文民統制でない文官統制が形づくられた。自衛隊倫理法や倫理規定はあるが、事務次官が倫理監督官になっており、これでは自分の不祥事が裁けるはずがない。

 また事務次官には防衛の根幹を握ると同時に防衛装備品の開発や調達も掌握する権限がある。装備品のノウハウに精通している業者が事務次官の一言で情報を漏洩しないとも限らない。政策と調達の権限を切り離し、装備品開発チームを立ち上げコスト削減も図るべきだ。無為無策のツケが回っている。(辰)

(19年12月10日号掲載)

 防衛利権についにメスが入るか、防衛省一筋、4年以上にわたり防衛事務次官を務めた守屋武昌氏の収賄容疑での逮捕が濃厚となった。ダグラス・グラマン社の軍用機売り込み疑惑以来の大掛かりな立件である。

 守屋氏はすでに業務上横領容疑で逮捕されている防衛商社「山田洋行」の元専務宮崎元伸容疑者との癒着が発覚し、航空自衛隊次期輸送機(CX)のエンジン納入をめぐり、省内で有利な発言をしたという。十年余り前から三百回以上、時には夫婦でも偽名を使いながらゴルフ接待を受けていた。総額1500万円にのぼる。この接待と同商社の昨年度までの5年間の受注額174億円は関係が深いとみるのがスジ。その9割以上が随意契約だ。

 宮崎容疑者は航空自衛官から同商社に入り防衛庁への航空機部品の納入を手がけてきたが、経営対立から「日本ミライズ社」を設立CXの納入を巡り米国の子会社を巻き込んで接待費を捻出していたというのが東京地検の見立てだ。ここまではまだ横領の範囲、核心は米ゼネラル・エレクトリック社の幹部と会談した際、CXエンジンの納入に際し、代理権を巡って守屋氏が便宜を図ったかどうかだ。証人喚問では「記憶にない」で押し通した。見返りを期待しないでこれほどの接待ができる、などと考える人がいたらお目にかかりたい。

 商社が防衛装備品納入に絡んで代行するシステムは我が国独特のもの。ほとんどが欧米からの輸入に頼っているためだが、海外メーカーとの橋渡しや最新の情報収集・提供までを商社が担っているのが現状だ。この代行が代償という随意契約を得るうまみであろう。ロッキード事件、ダグラス・グラマン事件では軍事秘密を理由に疑惑が解明されていない。地検の捲土重来を期待したい。(辰)

(19年11月19日号掲載)

 魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)し、「豪腕」「壊し屋」の異名の政治家が政界、世間を騒がせた。前安倍総理の辞任に続く「まさかの坂」の再現である。化け物のような存在は失礼ながらかつて中曽根内閣を作ったと豪語してやまなかった渡辺恒雄読売グループ本社会長。後者は民主党代表の小沢一郎氏である。

 自民党との大連立を画策し失敗、小沢氏は一度は辞表を提出したが、慰留されて撤回三日間のワンマンショーだった。この大連立を演出したのが渡辺氏だと言われている。政権交代を掲げ参議院選で大勝、解散総選挙の時期が取り沙汰されていたこの好機に、小沢氏が自民党との連立のシナリオを話し合う事は政権より政局という色気に惑わされた、と言うしかない。

 小沢氏はこれまで93年6月新政党結成、94年12月新進党、98年1月自由党と相次ぐ新党結成や既存政党との離合集散による政界再編を繰り返してきた。先の異名がそこからかぶせられたが、確執などで短命に終わっている。今回は「いまだ、様々な面で力量不足、政権担当能力が本当にあるのか、あらゆる面で今一歩」と、若い党に見切りをつけ、政権奪取を目指した党代表の豹変である。

 民主党は十数人から四、五十人グループでの寄り合い所帯、代表は持ち回りのように代わってきた。今回の辞意発言に発奮する若手中堅の声が伝わって来ないのが、片腹痛い。党首討論が緒についたばかりだというのに密室談合。福田首相と小沢氏は二日間にわたって何を語り合ったのか国民に説明する義務がある。

 共同通信社が実施した大連立の世論調査の結果、反対56・4%賛成25・8%、国民は数合わせにうんざりしている。政策で競え、政治に近道はない。(辰)

(19年11月12日号掲載)

 11日に行われたWBC世界フライ級タイトルマッチは見るに堪えない試合だった。プロデビュー1年そこそこの挑戦者がチャンピオンと戦うカードに無理がなかった、と言えるだろうか。結果はチャンピオン内藤大助選手の大差の判定勝。挑戦者亀田大毅選手は反則を連発、減点。格の違いをみせつけた。

 今回、この反則行為に対して、日本ボクシングコミッション(JBC)が処分を下した。父でトレーナーの史郎氏は威嚇行為、反則指示行為の責任でセコンドライセンス無期限停止。大毅選手は1年間のライセンス停止、セコンドをしていた長男の興毅選手は反則行為を指示したとして厳重戒告処分となった。

 亀田父子にはこれまで主審の判定にクレームをつけたり、ファンのケンカに父が突進したりするなどトラブルが多かった。テレビカメラの前でも相手を挑発する毒舌、不良っぽい服装とガン飛ばし、敬語とは無縁の父子が言いたい放題。それでもキャスターのみのもんた氏は、父子愛を褒めちぎった。テレビとみの氏が亀田父子の言動をある意味助長したとも言える。

 JBCも亀田兄弟の試合に反則行為が多いのを知りながら見過ごしてきた経緯がある。今回の迅速な対応はファンのボクシング離れを恐れての事だが、試合中にテレビの音声に拾われた興毅選手の反則指示に対しては処分が甘過ぎると思う。

 JBCは日本でのプロボクシングの規則を定め、試合の管理、選手の健康管理や安全防護の徹底、プロボクシング界のもめ事の解決する機関。しかし、興行の中身や売り出し方は各ジムのビジネスで自主性に任され、深く立ち入れなかった、と言う。低迷するボクシング人気の盛り上げに一役買いながら奈落の底へ、自業自得と突き放さざるを得ない。(辰)

(19年10月29日合併号掲載)

 入門仕立ての17歳の新弟子が稽古中に急死した問題で、所属部屋の時津風親方(元小結双津竜)が解雇された。日本相撲協会員の身分を失うため、角界からの追放を意味する。不祥事続きの協会の対応のまずさが際立ったこの問題、親方の解雇だけで片付けられない組織の閉鎖性が問われている。

 4月に入門したばかりの序の口力士だった斉藤俊さん=しこ名・時太山=が名古屋場所前の6月急死した。当初の説明では相撲界で若い力士を鍛えるための「かわいがり」で気分が悪くなり、急死したとされていたが、週刊誌で騒がれ一転、親方がビール瓶で殴った事を認めた。その後関係者の話から兄弟子たちの土俵外でのリンチまがいの暴行も明るみになっている。親方は暴行を口止めし、亡くなった直後には部屋側が火葬まで持ちかけていたという。

 新潟市の自宅に戻った遺体には体中に無数の殴られたようなアザがあり、親方の説明に納得しない両親が行政解剖を求め、暴行が死につながった、として愛知県警が立件に踏み切った。3カ月も過ぎての事である。その間北の海理事長は詳しい事情を聞く事もなく放って置いた。若者の尊い命が失われたにもかかわらず動こうとしなかった理事長の指導力が問われている。

 日本相撲協会は力士親方、行司、若者頭、世話人、呼び出し、床山らの協会員とその他の職員で構成され、協会の理事は元力士の10人の親方がなっている。横綱審議委員会は諮問機関にすぎず、重要事項の決定権は内部の人間が持つ極めて閉鎖性の強い組織である。財団法人なので公益事業であり、文科省が監督官庁だ。69連勝の双葉山が興した名門部屋の行方と新弟子検査への影響が気になる。国技であることを忘れる事なかれ(辰)


(19年10月8・11日合併号掲載)

 安倍改造内閣にサプライズ人事がなかったと思ったら、所信表明演説の後、首相自ら辞意を表明し政権を投げ出してしまった。前代未聞、無責任極まりない。参院選での惨敗にもかかわらず政権にとどまったためだが、お坊ちゃまは人情深く優柔不断、打たれ弱かった。

 辞任に伴う自民党の後継総裁選は14日に告示され、麻生太郎幹事長と福田康夫元官房長官の一騎打ちは、党内9派閥のうち8派閥の支持を得た福田氏が圧勝した。2人とも世襲議員。福田氏は戦後13人目故福田赳夫首相の長男、麻生氏は同3人目故吉田茂首相の孫どちらも小泉政権に重要閣僚としてかかわってきただけに、構造改革路線の継続では大差がなかったが、安定感があり協調型の福田氏になびく雪崩現象が起きた。

 小泉時代にぶっ壊されたはずの派閥が息を吹き返し、合従連衡の果てに誕生した福田総裁、憲法上衆院第1党の総裁が首相になるのだから、ここは速やかに衆院を解散し、総選挙を実施して国民の信を問うべきだ。このままでは安倍政権の“暫定色”が更に強まる。

 空転している臨時国会重要法案のテロ対策特別措置法は11月1日に期限切れとなる。福田氏は官房長官時代に考えていた自衛隊派遣恒久法の制定を示唆したとも伝えられている。国際的な平和活動のため自衛隊を随時派遣可能とするものだが、憲法解釈で禁じてきた集団的自衛権行使にあたらないか、よく検討すべきだ。

 有権者=国民にとって気になるのは解散時期。民主党は08年度予算案の参院審議がヤマ場を迎える来年3月に焦点をしぼったという。福田氏が総裁選のさなか話し合い解散を匂わせたためらしいが、今国会会期末、1月通常国会冒頭解散もありえる。「政界は一寸先は闇」だから。(辰)

(19年9月20・24日合併号掲載)

 「人心一新」がほころんだ。1か月もかけて臨んだ安倍改造内閣遠藤武彦農相の辞任で崖っぷちに立ち、政局は波乱含みで10日から臨時国会が始まる。

 「本当にイヤだな。ここだけは行きたくないな」と言いながら引き受けた心情を、ああやっぱり、と思うのは私だけだろうか。遠藤氏は自ら組合長を務める置賜農業共済組合が果樹共済の加入者を水増しして、国負担分の掛け金115万円を不正に受給していた。三年前に会計検査院からこれを指摘されながら放置していた。農水省の補助金を不正に受給した組織のトップが農相で居られるはずがない。任命権者の安倍首相の責任論が再燃するのは必至だ。

 この改造で注目したいのが「身体検査」なる身上調査だ。首相の外交日程を挟みながら内閣情報調査室の集めた資料をチェックし、1か月かけた結果がこの程度。法務省や警察庁を利用する器量が官邸サイドにないのだ。今回はそこまでしなくても三年前に分かっていた事であるのだが。

 塩崎前官房長官、小池前首相補佐官(前防衛相)、世耕前首相補佐官らが去り、井上義行首相秘書官だけでは心許ない。頼れるお友達は大臣ポストを断って解散総選挙に備えている。各派領袖クラスの重鎮を取り込んだ政策実効内閣らしいが、国会論戦前に政治献金や政治資金報告ミスで連日新聞を賑わしていては、論戦に集中出来ないだろう。

 それにしても農水族に相次ぐ不祥事は、補助金漬けの農政に原因がある。国から補助金を受けた団体は、政治家に税金を環流させ持ちつ持たれつの関係を築いてきた。共済組合を指導監督する県は指摘されながら先延ばしにして来た。斎藤知事の「関係機関の弛緩」の一言で済まされる問題でない。組織の箍(たが)が緩んでいる。(辰)

(19年9月13日号掲載)

 先の参議院選挙で大敗したものの続投を決め27日に内閣改造で再出発する安倍政権、閣僚の顔ぶれ如何では政局を維持できず、衆議院解散に追い込まれかねない。政治と金の問題が尾を引き、ここに来て内閣の番頭役の塩崎官房長官の事務所経費二重計上が発覚した。小池防衛相と事務方トップの事務次官との人事権争いで、痛み分けのような処理もあったが、小池大臣の処遇が気になる。自民党の危機に便乗して派閥均衡の挙党内閣に戻るのか国民は注視しなければならない。

 臨時国会での最大争点は11月1日に期限切れになるテロ対策特別措置法だ。シーファー駐日米大使と民主党の小沢代表との会談は、協力要請拒否の物別れに終わっている。国連決議の是非、国際貢献という大義名分、日本の国益という観点から、同特措法を改めて検証してみたい。

 01年9月に米同時多発テロが発生し、テロ事件を非難する国連安保理決議1368を採択。これを受けて10月に同特措法は成立した。11月海上自衛隊をインド洋に派遣、延長を重ねながら6年近く給油給水活動を続けている。

 湾岸戦争で「金は出すが汗をかかない日本」イラク戦争では「ショー ザ フラッグ」などと同盟国としての貢献を求められた。それが国際貢献だと。だから今も「復興支援、対米協調」の名のもとに隊員が汗を流している。

 日本は中東から9割の石油を輸入しているのだから、安定した平和な中東は日本の国益にかなうと言う。しかし、イラク戦争は米国が石油を独占したいがために仕掛けた戦争である。イランとも緊迫な情勢にある米国、中東イスラム圏は米国の世界戦略を否定している。米国追随は国益にかなうとは言い難い。インテリジェンスを駆使し国際情勢を見据えた議論が大事だ。(辰)

(19年8月27日号掲載)

 「自民歴史的大敗」「自民惨敗、与野党逆転」等の白抜き活字が躍った第21回参議院選挙、メディアの大方の予想を上回る文字通りの歴史的結果に終わった。89年に宇野首相が退陣した36議席に迫る37議席、国民は安倍首相続投に「ノー」を突き付けた形だ。政権発足10か月で初めて問うた国政選挙だが、政策を争う選挙ではなく安倍政治のあり方を問うた選挙と言える。

 年金制度の信頼性、政治と金の問題に対する自浄作用、閣僚の失言等指導力と政権運営能力に、国民は代わって欲しい、と意思表示した。まして「私と小沢さんのどちらが首相にふさわしいか」と問いかけたのは、安倍首相自身である。ここは潔く退陣するのが筋だ。

 しかし、全ての結果が決まらない内に、首相自ら続投を宣言した。収まらないのは与党内出るは出るは執行部への批判が堰を切って噴き出した。敗因の一つ政治と金の渦中にいた赤木農水相が詰め腹を切らされるようにやっと辞任した。遅かれ早かれ辞めざるを得なかったのだが、時機を失した。

 これだけの大差をつけての野党圧勝だが、国民の首相退陣への反応は選挙結果ほど厳しくなかった。退陣賛成47対続投40。国民は安倍政権にお灸を据えただけなのだろうか。参院選は政権選択選挙ではないので首相の進退は問われない、とする与党内の声に拍車をかけそうだ。ここは成り行きを見守るしか手はない。

 参院第一党に躍り出た民主党も国会運営の手腕が問われる。これまでのように単なる野党としての反対だけでは、政治を停滞させる。政策の論争で世論の支持を勝ち取って欲しい。手始めは臨時国会での「テロ対策特措法」の攻防だ。有権者は揺れ動く。政局より政策という原点を見失う事なかれ。(辰)

(19年8月9・13日号掲載)

 「新潟―神戸ひずみ集中帯」。今回発生した新潟県中越沖地震はこの地域の中で起こった。新潟県から神戸市にかけて幅50〜200`の帯状になっていて約3千万〜1500万年前に、ユーラシア大陸に亀裂が入って日本海が誕生した時、地殻が引っ張られて出来た多数の断層がある。04年の中越地震もここで発生している。

 大きな揺れが到着する前に予想震度を知らせる気象庁の緊急地震速報は、一部で速報を出す事に成功したが、住民に届かなかった。04年2月試験運用が始まり、昨年8月から鉄道など一部事業者に提供されているのだからメディアをつうじて国民に浸透させるべきだ。最大震度は初動態勢をとる上で重要なのに中越地震に引き続き今回も、柏崎市の「6強」のデータが届かなかった。電話回線に替わるバックアップ機能が必要だ。

 想定外で済まされないのが原子力発電所の耐震設計だ。柏崎刈羽原発で放射能を含む水漏れが発生、大事には至らなかったが、調査結果が出るまで全面停止は必定だ。ひずみ帯の中しかも長岡平野西縁断層帯近くにあり、海底で4本の断層を見つけていても、耐震設計上考慮されていなかった。想定内の出来事に思えてしまう。

 そんな中電力会社や携帯電話会社が被害状況の調査や応急処置に迅速に対応した。国土交通省北陸整備局も自治体からの要請を待たずに、復旧支援のため応援要員を派遣した。ドクターヘリで現地入りした日本医大北総病院チームもあった。しかし、まだ医療支援が滞っている。安否確認にも手間取っている。

 被害を最小限に食い止めるためには、自主防災組織の充実と住民の冷静な判断と連携が大事だ。災害は忘れた頃にやって来る。突発時に冷静、的確に行動できる住民でありたいと願う。(辰)

(19年7月23日号掲載)

 吉か凶か。数で押し切り延長した今国会が閉会し、事実上参院選に突入した。参院選前に国会の会期を延長するのは戦後9回目、89年、98年の過去二回は自民党が惨敗し首相が退陣している。今回は同じ9周年目になり、内閣支持率も最低を記録し、どこか因縁めいている。

 国会法は通常国会の延長を一回に限り認めているが、参院選前の国会では、政府・与党が法案を絞り、会期内に終わらせるのが通例だ。安倍首相が会期延長にこだわったのは、政治とカネに絡んで自殺した現職閣僚の問題や年金記録問題を抱えたままでは参院選を戦えない、と考えたからであり、国家公務員の天下りを新人材バンクで一元化する法案で起死回生を図りたかったからだ。

 しかしこの法案、天下りの全面禁止ではない。窓口を一元化し企業と直接つながりのある各省庁が個別に再就職に関与するルートを絶ち、手続きを透明化する事で、官民の癒着を無くせるというが、有効性に疑問の声が多い。また独立行政法人は対象外であり、省庁から独立行政法人を経由して民間企業に天下ったOBは06年から過去10年間で366人もいたという。独立行政法人が抜け道になっているのだ。また、この法人からOBの再就職先の企業や公益法人には05年、約7割にあたる2330億円が随意契約で発注されていた。本気で制度改革を考えているのか、甚だ疑問だ。

 それにしても5カ月あまりの会期の中で審議の続行を求める野党の反対を押し切って裁決を強行したのは18回一定の審議時間が過ぎれば裁決し、可決する機械的な審議が目立った。安倍首相は就任後有権者の審判をまだ仰いでいない。閣僚の失言で足をすくわれては美しい国づくりどころか政権維持もままならない。(辰)

(19年7月9日号掲載)

 麻生太郎外務大臣の外交フォーラムが10日仙台市で開催されたので参加した。文科省のフォーラムでサクラとヤラセが問題になったけれど、こちらは大臣の基調講演と質疑応答が半々の結構白熱した語る会になった。幾分ベランメェ―調の“麻生節”は健在で、大臣と語る120分はあっという間に過ぎた。

 安倍総理になってギクシャクとしていた中国と韓国の近隣外交は就任早々の訪問で凪の状態にあるが、小泉政権時代に途切れたロシアとの修復、超大国の米国追随の外交姿勢をこのまま取り続けるのか、聞きたいところであった。

 講演で麻生大臣は日本外交を@日米同盟A国際協調B近隣外交C新機軸の4本柱で説明。言うまでもなく米国は、安全保障のパートナーであり、利益を共有していく上で大切な同盟国であるが、一人勝ちの力でねじ伏せる米国のやり方に、世界は背中を見せつつある。イラク戦争の是非が問われてもいる。

 このまま米国寄りである事が、国際協調するうえで足かせにならないだろうか。学生の質問に大臣は「米国を孤立させないために日本の役割がある」と応えた。さもありなん。国際協調で思い出すのが国連の常任理事国入りの失敗だ。女子大生の質問に、第二次大戦の戦勝国と敗戦国の事を持ち出し「日本は敗戦国だから入り難い」と応えたが、韓国、中国の反対をそれだけでは説明できない。歯切れが悪かった。

 安倍総理の訪問で靖国問題も歴史認識もひとまず沙汰止みになっているが、胸襟を開くまでには時間がかかる。ロシアとの北方領土問題は凍結状態、政治的妥協で解決した中国とロシアの国境にヒントがありそうだ。ユーラシア大陸に自由と繁栄の弧を創りたいと言う新機軸、八紘一宇に重ねては失礼かな。(辰)

(19年6月18日号掲載)

 松岡利勝農林水産大臣が「身命を持って責任とお詫びに代えさせていただきます」の遺書を残して自殺した。現職大臣として戦後初62年前の昭和20年8月14日、阿南惟幾陸相が敗戦の責任を取って自刃して以来の出来事だ。

 政治の世界は一寸先は闇、いつ足をすくわれるか分からない、と言われる。「こわもて」「武闘派」でならし、最後の農林族議員として絶大な権限を持ち、成るべくして農水大臣に上り詰めた果ての結果が、疑惑に応える事なく命を絶った事で、果たして責任とお詫びになるであろうか。

 農林省に入省して林野庁広報官を務めた後平成2年の衆院選で初当選、六期目で念願の大臣の座を射止めた。安倍内閣誕生の立役者の一人として所謂“論功行賞”で大臣になった、と言われる。内閣情報調査室は閣僚候補者の身辺を極秘に調査するのだけれど、松岡氏は適性に疑問符が付けられていたにもかかわらず。
 死者に鞭を打たないという日本の文化を知りつつ、ここはやはり松岡氏にまつわるこれまでの出来事を振り返ってみよう。自殺の引き金になったと思われる緑資源機構の談合と献金問題、資金管理団体の光熱水費をめぐる不透明な処理、他の事件の贈賄側であった製材会社「やまりん」からの献金、05年選挙では4人の地元関係者が選挙違反(買収)で逮捕。

 「こわもて」は集金力として作用、パーティを通じて林業関係の団体や地元建設関係者から広く集め、05年は1億2006万円を集め、総務省届け出の全政治団体の中で15位だった。資金管理団体の収支報告書の支出先の訂正が3年分で100箇所以上という杜撰さ。

 族議員を関連官庁の担当相に任命した安倍首相の責任は、「慙愧に堪えない」だけで済まされない。(辰)

(19年6月11日号掲載)

 またもや起きた暴力団関係者による銃撃事件、元妻を人質に立てこもった今回の事件の対応に不満が残る。

 家庭内暴力(DV)に耐えられず離婚した元夫婦のいざこざと暴力団を除名され、地域でトラブルメーカーだった大林容疑者を、警察は知っていた。一報の110番通報は「父が拳銃を持ち出して立てこもっている」だったにもかかわらず、防弾衣を着けずに一人で向かった木本巡査部長が銃撃された。午後4時頃。2時間後携帯無線からのうなり声が途絶える。木本巡査部長が救出されたのは五時間後だった。

 木本巡査部長の救出があと少し遅れていたら最悪の事態にもなったと言う医療関係者の話があり、愛知署の署長たちが語る「第2、第3の被害者を出さないように最善の態勢を整えていた」「装備や捜査員の配置を整えるために時間がかかった」とすれば、対応が後手に回ったとしか言いようがない。

 木本巡査部長と元妻が救出されたとはいえ溜飲が下がらないのは警察の毅然とした態度が見えないためだ。元妻が逃げ出した時点で踏み込んで欲しかった。人質がいないのに6時間も説得を続けた交渉人の役目とは。引き伸ばせば伸ばすほど地域住民に不自由な生活を余儀なくさせてしまった。

 特殊部隊(SAT)はハイジャックやテロの犯人制圧を主任務とし、防弾チョッキ、防護用ヘルメット、高性能銃などで武装。警視庁、愛知など8都道府県で300人が活動、殉職した林一歩警部(巡査部長から2階級特進)はその一員。木本巡査部長を救出する際防弾チョッキの隙間から撃ち抜かれた。容疑者の発砲に応戦せず、能力を発揮しないまの殉職だ。初動態勢のまずさと指揮官の判断が問われる銃撃事件といえる。(辰)


(19年5月28日号掲載)

 野球選手であることを理由としたスポーツ特待生制度に違反した高校が376校、7971人にのぼった。プロ野球の西武の裏金問題をきっかけに発覚した制度違反、これまでの自粛通達にもかかわらず歯止めに至らず、応急措置として事態を収拾する意向だ。

 日本学生野球憲章第13条で選手または部員である事を理由として学費、生活費など金品を受け取ることが出来ないのに違反している訳だが、事ここに至れるまで放置していた高野連の責任は重い。高校野球ファンなら誰しもこの手の話は耳にしていたはず。取材記者ならなおさらだ。高野連は90年5月と05年11月の2度にわたり、中学生の勧誘行為の自粛などを促していた。

 今回の調査で明らかになった違反校は公立校1校以外全て私立校である実態は何を意味しているだろう。スポーツに秀でた生徒を集める事で独自色を出し学校の知名度を上げたい学校側の思惑と特待生で授業料などを免除して貰えれば、家庭の負担が減るという生徒側の思惑が内在している。私立であれば学校の運営や経営方針に直結する問題で高野連は憲章の規定を押し付けられなかったと言い、高体連に属していないので、憲章順守が格別要求されている、とも。

 今回の調査結果を受けて日本学生野球協会は@該当選手の5月31日までの対外出場禁止A特待生解除の同意書を保護者から5月中に集めるB部長を交代させる、といった是正措置を義務付け、これらの条件を満たせば今夏の全国選手権大会の地方大会に出場できる。

 夏の甲子園大会ありき、の決着に思えてならない。プロ野球の利益供与にうごめく人物の根絶と秀でた人材を世に送り出す側面を持つ特待生制度の透明性と明確な基準づくりが待たれる。(辰)

(19年5月14日号掲載)

 「新人材バンク」創設を柱とした政府の公務員制度改革案がまとまった。天下りに歯止めをかける内容に程遠い中途半端で小手先にすぎない代物だ。
 省庁ごとに確保している天下り先を禁じて一元的に再就職を斡旋すると言うのだが、予算や許認可の権限を遮断しない限り無理があり、受け入れる企業や団体は、本人の能力より役所の見返りを期待している。新バンクの職員と省庁が人事情報の提供を必要に応じて協力するシステムならなおさら期待薄だ。
 天下りは談合の温床である。天下り先の規制対象から特殊法人や独立行政法人をはずしてはいけない。中央省庁から公益法人や特殊法人等の外郭団体に天下り・出向している国家公務員が4576団体、2万7882人(06年4月現在)に上り1年前に比べ589団体、5789人増えていた。これらの団体への06年上半期分の国からの補助金は4兆886億円にのぼり、契約による事業発注額1兆8313億円の内随意契約が98%の1兆8001億円を占めた。
 何の事はない。税金で官僚の天下り先を作り、再就職させて無駄遣いさせているのだ。退職金を二重取りする「渡り」は言語道断、廃止すべきだ。
 再就職斡旋が止められない背景に「肩たたき」の慣例があるという。5年間で総人件費の5%削減を掲げている政府には、この慣例の廃止は人件費の削減に逆行する。では定年まで役所で働き、年功序列の人事制度を見直し、能力・実績主義に切り替え、民間からの公募を含め、官民交流を拡大したらどうだろう。
 安倍首相が掲げた公務員制度改革はそもそもが官民交流の促進であった。その議論をしないまま新バンク創設を目玉に掲げたのは夏の参院選向け、と揶揄されても仕方あるまい。(辰)

(19年4月23日号掲載)

 次世代自動車燃料としてバイオ燃料、次世代バッテリー、水素などの燃料電池がある。その中で注目を集めているのが、バイオエタノール。サトウキビ、トウモロコシなどに含まれる糖を発酵してつくるアルコールで、ガソリンに混ぜて使用。植物の成長過程で二酸化炭素を吸収するため地球の温暖化防止に効果があるとされている。
 国産バイオエタノールの増進を進めている「バイオマス・ニッポン総合戦略推進会議」は、2030年までに年600万`リットルの生産を目指している。ブラジルは1931年にガソリンへのアルコール添加を義務付け1970年代の石油危機を契機にバイオエタノールの普及に取り組んできた先進国。05年の生産量は1670万`リットルだ。
 もう一つの先進国アメリカは今年の大統領の一般教書で、ガソリンの消費を今後10年で2割減らしエタノールで補うという。このためトウモロコシ相場が高騰しているが、バイオ燃料車の開発に取り組む自動車業界の「救済策」と見る向きもある。
 我が国では北海道十勝地区、山形県新庄市堺市、岡山県真庭市、北九州市、沖縄県宮古島・伊江島で実証事業が進められ、一部実用に踏み切っている。が混合方式にガソリンに直接混ぜるE3方式と石油精製の副生成物イソブテンと合成したETBEという物質にして混ぜる2種類があり環境省と石油連盟で意見が分かれている。
 一方、「水田を油田に変えよう」という取り組みもある。新潟県三条市と見附市では83eにバイオエタノールの原料になる多収米を植え、収穫に成功。減反調整に喘いできた農村にとって、水田を生かす絶好の機会なのだが。世界の環境問題をリードするために、資源の乏しい我が国の技術力に期待したい。(辰)

(19年4月9日号掲載)

 国会、地方議会で新年度予算審議真っ最中に「そんな議員いらないべー」の見出しが躍った。あの財政破綻した夕張市での住民の叫びに、共感を覚えると共に議員の反省を促したい。
 議員になる志は人様様であろうが、住民の要望を伝え役所の仕事を承認するだけのパイプ役では、もう勤まらないし、必要とされないはずだ。役所の業務予算の執行を監視するのが議員の務め、馴れ合い、もたれ合いでは行政が死に体になる。
 この時期に配られる分厚い予算書、誰のために作成されているのだろうか。一般住民にはなかなか手に入らない。読みたいと思わせる代物でもない。予算審議で説明を受ける議員でも分からない部分がある。分からないまますんなり議会を通ってしまい、債務が積もり積もって…、夕張の二の舞にならないとも限らない。
 予算審議が終わると統一地方選に突入する立候補を決意した人たちは、パイプ役からチェック役へと変身する気でいるのだろうか。地方議員の間で決算読み方講座が人気だという。自分で課題を読み解く能力が求められ、政策の評価や解説が出来ない議員は、選別されるから必死なのだ。総務省のホームページで全市町村の決算統計が閲覧できるので、勉強してみてはいかが。
 小泉政権が進めた地方財政改革は、地方交付税の削減、補助金廃止で地方の格差を広げつつあり、自治体の手腕が問われている。夕張市の西隣の栗山町では財政に強い議会作りを進め、全国で初めて議会基本条例を制定、中長期財政問題等調査特別委員会で、財政シミュレーションを実施している。
 情報公開と行財政改革は、生き残りをかける自治体の両輪、企業会計の知識も駆使し透明で開かれた自治体になろうよ。(辰)

(19年3月29日号掲載)

 国会、地方議会で新年度予算審議真っ最中に「そんな議員いらないべー」の見出しが躍った。あの財政破綻した夕張市での住民の叫びに、共感を覚えると共に議員の反省を促したい。
 議員になる志は人様様であろうが、住民の要望を伝え役所の仕事を承認するだけのパイプ役では、もう勤まらないし、必要とされないはずだ。役所の業務予算の執行を監視するのが議員の務め、馴れ合い、もたれ合いでは行政が死に体になる。
 この時期に配られる分厚い予算書、誰のために作成されているのだろうか。一般住民にはなかなか手に入らない。読みたいと思わせる代物でもない。予算審議で説明を受ける議員でも分からない部分がある。分からないまますんなり議会を通ってしまい、債務が積もり積もって…、夕張の二の舞にならないとも限らない。
 予算審議が終わると統一地方選に突入する立候補を決意した人たちは、パイプ役からチェック役へと変身する気でいるのだろうか。地方議員の間で決算読み方講座が人気だという。自分で課題を読み解く能力が求められ、政策の評価や解説が出来ない議員は、選別されるから必死なのだ。総務省のホームページで全市町村の決算統計が閲覧できるので、勉強してみてはいかが。
 小泉政権が進めた地方財政改革は、地方交付税の削減、補助金廃止で地方の格差を広げつつあり、自治体の手腕が問われている。夕張市の西隣の栗山町では財政に強い議会作りを進め、全国で初めて議会基本条例を制定、中長期財政問題等調査特別委員会で、財政シミュレーションを実施している。
 情報公開と行財政改革は、生き残りをかける自治体の両輪、企業会計の知識も駆使し透明で開かれた自治体になろうよ。(辰)

(19年3月15日号掲載)

 このところ世相を賑わしているマスコミ界の不祥事に「社会の木鐸」という言葉がなんと空しく響く事か。ジャーナリズムには野次馬的性格があるにせよ度が過ぎる。文科省のやらせ質問を指弾した新聞社が、こん度は自ら“サクラ”に手を染めた。
 最高裁と全国地方新聞社連合会が全国で共催した「裁判員制度フォーラム」で、新聞社が謝礼を支払って動員をかけたのだ。産経新聞社、千葉日報社、岩手日報社、西日本新聞社、河北新報社。
 問題の背景に地方紙の厳しい広告事情があり、般企業の広告が伸び悩むなか官公庁からの広告出稿とセットになった政策啓発行事などを共催する方式が定着。大手広告会社の電通がまとめ役となって各官庁から事業を受託、地方紙はイベント運営や記事で紹介し、官庁ら関連の広告を出稿してもらう仕組みだ。
 05年の広告費全体に占める新聞広告のシェアは17・4%で10年前より4ポイント下がった。反面、連合会がらみの受注件数は年々増え、05年度は70件以上受注額は三十数億円と3倍以上に増えている。イベント成功へのプレッシャーで片付けて良いのか。
 ジャーナリストは自らの社会的歴史的任務を自覚し、職業倫理を確立しなければならない。なのに朝日新聞社のカメラマンが読売、新潟日報の記事を、山梨日日新聞社の論説委員長と新潟日報の論説委員も他社の社説を盗用した。
 関西テレビの「発掘!あるある大辞典U」の番組捏造。2年前にもテレビ東京系の番組で花粉症の新療法試す実験をしたかのように見せかける事件を起こしている。下請けや孫請けの制作会社が番組を作り、局側がチェックしきれていない実態がある。「無冠の帝王」を履き違えるな。(辰)

(19年2月26日号掲載)

 学校給食費滞納22億円。文部科学省が初めて実施した全国の学校給食費に関する実態調査で分かった05年度の滞納額だ。学校給食法は給食費について「保護者の負担とする」と定め、子供に栄養を与え成長を助けるものだから、保護者も応分の負担をすべきだ、との考えに基づいている。
 学校給食は118年前、貧しい子供の救済を目的に、鶴岡市で始まった。現在、小学校の99%、中学校の82%で実施されている。費用は平均月額4000円、全国の小中学校で10万人が滞納、100人に1人の割合だ。
 かつては給食費の集金袋を先生に手渡せないのは、貧しい家庭の子供と相場が決まっていた。親は我が子に恥じをかかせまいと必死に働いたものだ。今回の調査での滞納理由は払えるのに払わない保護者60%、経済的に払えないが33%。高級車に乗っているのに払わない、義務教育だから、と言って払わないのは言語道断。
 自らが果たすべき責任より欲望を優先するモラルの低い保護者の存在に、約束を守り、決まりに従う事を軽視する風潮を見て取れる。滞納が増えれば徴収した給食費でやり繰りし食材の質を落としたりデザートの回数を減らすなどの対応を取らざるを得ないだろう。
 かといって無理な回収は子供を傷つけたりいじめの原因になり得る。家計は苦しいものの生活保護を受けるほど困窮していない世帯を対象に、子供の学校生活に必要な費用を市町村が負担する就学援助制度の活用を奨励すべきだ。
 交代で当番をし、皆で食べる給食は「食育」の原点。昨今は肥満対策、偏食や朝食抜きの子供の栄養確保といった家庭のサポートまでせざるを得ない状況だ。下流社会なる新たな階層の出現を説く人もいるが、衣食足りて礼節は知るべきだ。(辰)

(19年2月12・15日合併号掲載)

 防衛庁が防衛省に昇格した。1954年発足から半世紀あまり、安倍首相は戦後レジーム(体制)からの脱却と、昇格の意義を強調し、集団的自衛権の行使の研究と憲法改正に拍車がかかりそうだ。
 11番目の省になった事を受け、従来の自衛隊管理官庁から政策官庁へ衣替えするため、設置法が改正される。予算要求や法案提出が可能となり、防衛出動の承認を得る閣議開催も独自に出来るようになる。省昇格が防衛予算の拡大や文民統制の弱体化、専守防衛の逸脱を招く事への危惧は否めない。
 これまで安全保障政策を共同で担ってきた外務省や首相官邸に新設予定の日本版NSC(国家安全保障会議)との役割分担をどうするのか。例えば自衛隊の海外派遣の際の対米交渉では、外務省が優先すると考えるが、在日米軍再編に関して防衛庁が対米交渉をリードした事もあった。
 省昇格に併せて自衛隊の海外活動が住来の付随任務から本来任務に格上げされる。しかし自衛隊員の武器使用が正当防衛と緊急避難に限られ、任務行為を妨害する行為を排除する事が許されない。友軍が攻撃されても座視するしかない枠組みが武器使用に発展しないだろうか。防衛政策の基本としてきた専守防衛は、北朝鮮のミサイル発射で先制防御という自衛権行使に傾かないか。
 防衛大臣を補佐する防衛参事官は背広組しかなれない現行制度を廃止するのか制服組を登用するのか。日米関係の緊密化に伴い制服組への依存度が高まるけれど、その際シビリアンコントロール(文民統制)は骨抜きにならないか。昇格しても自衛隊の最高指揮官としての権限は首相にある。防衛庁発足の年に生まれた安倍首相、功を急ぐあまり国民を戦火に曝す事なかれ。(辰)

(19年1月22日号掲載)

 我が国は1956年12月18日、80番目の国連加盟国として認められ、国際社会に復帰した。重光葵外相は「今日の政治、経済、文化の実質は過去1世紀にわたる欧米及びアジア両文明の融合の産物であって、日本はある意味において東西のかけ橋となり得る」と訴えた。加盟から50年、国連外交の行方は。
 国連は創設時51カ国だったのが現在192カ国に拡大。グローバリゼーションの進展に伴いテロ、感染症、環境破壊、貧困、大量破壊兵器の拡散等地球規模の問題に直面しているが、国連の組織、体制が変化に対応しきれていない現状がある。
 国連決議を待たずにイラクに侵攻した米国は、分担金の滞納が続いている。国連平和維持活動(PKO)にも懐疑的だ。しかし、一国だけで世界の警察官は務められない。米国を含め第2次世界大戦の戦勝国が安保理常任理事国を独占し、拒否権を持つことへの批判は根強いと言われる。
 昨年末、分担率が決定し我が国はこれまでの19・5%から16・6%に下がった。米国に次いで2番目。「分担率に見合った地位と発言権が欲しい」というのが、国民感情だろう。しかし、評価は低い。
 PKOで世界に展開されている8万人の内我が国は31人で、80番目の規模にとどまる。国連職員の数も主要国で最低だ。イラクへの自衛隊派遣は日米有志連合の枠組みで、PKOには数えられない。カネより人の存在が問われている。
 韓国の潘基文氏が国連事務総長に就任する。アジア出身者ではウ・タント氏以来35年ぶり二人目。アジアの重要性が一層高まる中で東西のかけ橋としての役割を果たす事が、発言力につながっていく。常任理事国への助走が始まったにすぎない。インテリジェンス=情報能力の底上げが喫緊の課題だ。(辰)

(19年1月15日号掲載)

 安倍政権の改革の試金石と言える道路特定財源の見直し政府案は、与党の要求に屈した玉虫色の決着になった。小泉前首相が財源の見直しを打ち上げて道路族の利権を断ち切ろうとして果たせず、安倍政権に引き継がれたこの改革も、焦点のガソリン税の一般財源化は明記されず、道路整備計画を来年中にまとめ必要な事業量を示す事になった。
 また長年にわたり2倍に設定されてきた自動車関連税の「暫定税率」は据え置かれる。つまり増税したまま道路は造られ続ける訳だ。
 道路特定財源は揮発油税(ガソリン税)等の国税、軽油取引税等の地方税を合わせて5・8兆円。ガソリン税は一般財源だったが1954年、道路復興を理由に特定財源になった。ガソリンがまだまだ贅沢品という意識が、高い税率を容認してきたといえる。
 道路建設に使途を限ったこの財源は、業者とそれを取り巻く政治家や官僚等の利権の温床となって来た。公共事業が孕む元凶でもあった。いつの選挙でも道路建設を公約に当選を目指す議員が多いのもその表れである。
 一方、暫定税率は、特定財源が07年度に5千億から7千億円余る見通しにもかかわらず据え置きのまま。自動車連盟などは「一般財源にするなら減税が筋」と、880万人の反対書名を集めた。この票は前回参院選の自民党得票数の半分近くに相当し、反発が怖い。
 見直し策の中で注目したい使い道が高速道路料金の引き下げ。02年に設けられた民営化推進委員会は自助努力による借金返済を公団改革に掲げており、今回検討されている旧道路公団の債務返済に充てる案は、この改革を蔑ろにしかねない。改革に取り組む姿勢の後退が安倍内閣の支持率低下を招いている。(辰)

(18年12月18日号掲載)

 国会議員も使い捨て郵政民営化を問うた昨年の総選挙で、当選した「刺客候補者」が、造反議員の自民党復党が決まり、苦しい立場に立たされている。今回復党するのは11人。「郵政民営化の政権公約に違反した場合は議員を辞職する」と誓約してまでの復党だ。
 この復党問題、来夏の参院選挙の勝利を狙った自民党執行部の思惑と無所属故に政党交付金がもらえない造反議員の苦しい台所事情が一致した形だ。自民党が先の総選挙で大勝したのは、古い自民党を壊しマニフェストに従って透明な政治を担う新しい改革政党に生まれ変わる、とPRし人間関係や利害といった情ではなく、政策中心の理に動く政党を訴えたからであろう。小泉劇場を煽ったメディアの影響もあった。
 刺客候補は幹事長だった安倍総理が力を入れた候補者公募制から生み出された代物。その安倍氏がすんなり復党を認めた事は、小泉氏を信じて投票した有権者を裏切る事になり小泉路線との決別を意味しないか。
 自民党の古い体質が取り沙汰される時、跳梁跋扈するのが4人組とも5人組とも言われる青木氏、森氏たちだ。故小渕総理の後継者に森氏を決めた時と同じホテルで今回の復党問題を話し合ったという。密室政治の復活だ。
 信念は貫き通したいけれど背に腹は変えられないのが議員。1月1日現在で党に在籍していれば、政党交付金が配布される。所属議員数と直近の国政選挙の得票率に応じて割り当てられるが、11人分は2億5千万円になる。因みに復党しなかった平沼氏は05年、4億円超の政治資金を集めその意味では余裕がある。
 郵政民営化の賛成票と反対票の二重取りという自民党のご都合主義を、有権者はどう判断するのか、参院選挙に注目。(辰)

(18年12月11日号掲載)

 教育基本法改正案が衆議院で与党単独採決により可決され、参議院に送られた。安倍政権の最重要法案だけに採決を急いだ形だが、文科省を巻き込んだ「やらせ質問」、必修漏れやいじめ問題が噴出しているおり、基本法改正とどうからむのか、議論のないまま採決された事に、不安と落胆を隠しきれない。
 基本法は、未来を担う子供たちを育てる理念や原則を定めるものだが、現実に起きている諸問題は基本法のせいで起きているのか、改正すればどう良くなるのか、明確でない。戦前との決別の意識が強く、愛国心という言葉にあまりにも執着し過ぎていないだろうか。基本法が改正されれば関連法規や学習指導要領等が改正されるが、文科省の体質が変わらない限り、効果は期待薄だ。
 客のふりをして他の客を買う気にさせる役を商売では、サクラというが、政府主催の教育改革に関するタウンミーティングで、内閣府が事前に発言を依頼したり、謝礼まで支払う「やらせ」があった。
 その実態は教育基本法改正案に賛成意見を述べるように、文科省から質問案が渡されたうえ「せりふの棒読みは避けて、自分の意見を言っている、という感じで」と指導までされていた。開催費用は昨年度、1ヶ所につき約1100万円。国民が直接閣僚に質問出来るまたとない機会なのに、多額の税金をかけて民意を聞くふりをした、と言うしかない。
 このやらせは、文科省から内閣府を経由して開催地の教育委員会への要請だった。ここに文科省と教育委員会の上意下達ぶりが改めて見て取れる。「個人の価値を尊重して」「自主及び自律の精神を養う」と謳われている教育基本法改正案の教育目標がかすんで見える。それでも文科省に頼らざるを得ない現状が歯がゆい。(辰)

(18年11月23日号掲載)

 聖職は今や死語。口にするだけでも気恥ずかしい否、「とんでもない」と言われるほど教師、学校、教育委員会への風当たりは強い。いじめの対応や高校生の履修漏れで教育界は揺れに揺れている。折りしも安倍内閣は教育再生を掲げ、教育基本法の改正に取り組もうとしているが、教育現場で本音と建前を使い分けられていては、法の精神は画餅に過ぎなくなる。
 そもそも教育委員会とは何なのか。学校内では絶対といわれる校長の権限を知る事で、一連の問題の背景が浮き彫りになるだろう。
 教育委員会は、地方教育行政法に基づき全都道府県と市区町村に設置されており、委員は議会の同意を得て首長が任命、任期は4年。政治的中立性を確保し、広く住民の意向を反映するため独立した合議制の組織と謳われていても、今回の北海道滝川市や福岡県筑前町のいじめへの対応を見るに付け心許ない。
 「会議が形骸化し、国の方針に従う縦割りの仕組みで、責任の所在が不明確で迅速な対応が出来ない」との指摘に、再生会議では教育委員会の改革が必要、権限の強化が唱えられる反面不要論も出ている。任命される人は名誉職的色彩が強く、お上の言う事には逆らえない、従順な体質であったとの考えは間違っていなかった。「委員会よ君は盲腸のような存在だったのだ」。
 一方、校長は指導要領に従って教育内容と授業時数を決められ、特色ある学校づくりが可能なほど、絶対の権限をもっている。その校長が履修漏れや県教委に提出する教育課程表の虚偽記載を知らないはずがない。履修漏れが、入試対策を重視したルール違反で片づけられて良いのだろうか。入試偏重がもたらすヒズミに打ち込む楔は確固たる教育理念だ。学問に王道なし。(辰)

(18年11月2・6日合併号掲載)

 自らの財政規模を遥かに超えた借金を抱えて夕張市が、財政再建団体への移行を表明。企業なら会社更生法を申請するか倒産であるのに、自治体は破綻を認定する定義もなく、増税や公共料金の値上げ、人件費の削減等の再建計画を策定し、赤字解消を目指す。
 山田洋次監督の「幸福の黄色いハンカチ」のロケ地、かつては戦後の高度経済成長を支えた炭鉱の町夕張。メロンはあまりにも有名だが、炭鉱から観光へのまちづくり政策が裏目に出た格好だ。今年6月、632億円の負債を抱えて財政再建団体に転落。地方財政再建促進特別措置法に定められた実質収支の赤字が、標準財政規模の20%を上回ったことによる。財政規模が45億円に対し桁外れの負債、そこにはあの手この手の隠れ蓑があった。
 その一つが新年度と前年度をダブらせる出納整理期間を設け、前年度の赤字をこの期間に借りた資金で穴埋めする会計操作。さらにこの操作を隠蔽するため、一般会計と観光などの事業会計との間で資金の貸し借りを繰り返して、一時借入金を見えなくしていた。「赤字を出せば国の指導で地方債が発行できなくなって、地域振興が出来なくなる」「額が大きすぎてパンドラの箱を開けるのが怖かった」。財政を担当した助役と市議会議長の弁明だ。
 夕張市は氷山の一角として、総務省は財政難に陥った自治体を対象にする「破綻法制」の整備を検討しているが、自治体が破綻した時の金融機関からの借金を棒引きする債務整理が焦点だ。自治体が市場の監視にさらされ、金融機関が自治体の生殺与奪の権を握る事の是非が問われる。内需拡大や合併特例債等の借金奨励策の反省なくして、法整備もないと思う。第二、第三の夕張市がいつ生まれても不思議はない。(辰)

(18年10月23日号掲載)

 紆余曲折を経て貸金業規正法の改正案がまとまった。金利引下げを求める国民の声に逆行し、金融業者への配慮が透けて見える抜け道だらけの改正案だ。
 そもそも今回の改正は、最高裁が同法43条のみなし弁済規定=グレーゾーン金利の適用を否定し、債務者救済の判決を出した事を踏まえたものであったはず。にもかかわらず施行まで1年、経過措置3年の計4年間、グレーゾーン金利を残すうえ、小額短期の融資に限るとはいえ25・5%の高金利が5年間特例として認められる。
 グレーゾーン金利は利息制限法が認める15〜20%の金利と出資法の上限29・2%の間に巣食い、多重債務問題の温床になってきた。4年後には利息制限法の金利に一本化されるのは前進だが、小額短期融資は「借り換え」の繰り返しで骨抜きになる危険性を孕み、3カ月、500万円までの事業者向け特例高金利融資は、主婦やサラリーマンへの脱法的貸付の余地を残した。
 現在、返済に困っている多重債務者は150万から200万人いるという。05年の自己破産申告件数は、18万件を突破、死んで返済するケースもある。金融会社が保険料を負担して団体生命保険に加入し、借りての死亡時に300万円の保険料をせしめる制度の廃止を、消費者金融大手のアイフル、プロミス、三洋信販が検討を始めた。アコムの高率遅延損害金請求を含め、やりたい放題の貸金業者に遠慮は要らない。
 なのに改正案をまとめた金融庁の腰砕けの観は否めず、自民党を通じた貸金業界の圧力があったとも揶揄されている。報道によれば貸金業界の政治団体「全国貸金業政治連盟」が、渉外費として国会議員に献金していた事が明るみに出た。またしても族議員の暗躍か。後藤田正純政務官の辞任の真相が気になる。(辰)

(18年10月5日号掲載)

 出るは出るは12年間で17億円。岐阜県庁での裏金問題、職員組合を巻き込んだ巧妙かつ大胆な手口に開いた口がふさがらない。ついに渦中の梶原拓前知事がその事実を認め釈明したが、公務員が奉仕者である、との自覚は微塵もない。給料は税金、もっと言えば公務員は税金で養われている身なのだ。
 裏金問題はこれまでに何度も報道されてきたが、今回特に問題なのは職員組合が隠れ蓑に使われた事だ。不正を指示したと言われているのが旧自治省出身で当時副知事だった森元恒雄自民党参院議員。相談に乗った当時の藤田幸也出納長と川添正幸代表監査委員はどちらも組合の委員長経験者だ。職員組合は県の監査や情報公開請求の対象外である事を熟知していた。“御用組合”の面目躍如か。
 梶原氏と言えば、全国知事会長を務め「戦う知事会」をキャッチフレーズに改革派知事の一人に数えられた人物。実態は裏金の存在を知りながら、解明すれば知事選に不利と、手を付けなかった保身者。戦う相手と改革の矛先が違っていたようだ。
 裏金の使い道は接待費や飲食代、組合活動費等、ふるっているのは車の速度違反者の裁判費用。裏金の処分に困った職員が焼却したと報道されたが、真っ赤なウソ。調査した第三者機関「プール資金問題検討委員会」は、利息を含め19億2000万円の返還金を要求し、退職管理者が6割、現職管理者が4割を負担する。前知事ら旧幹部の県関係の公職からの自主退任を求めている。
 不正や隠ぺい工作を防ぐには、今年4月に施行された公益通報者保護法に基づき、条例や要綱を具体化し、内部告発で不正を明るみに出す事だ。4年前流行語大賞に選ばれた内部告発が違和感なく使われる事を願う。(辰)

(18年9月21・25日合併号掲載)

 北方領土・貝殻島付近の海域で50年ぶりにロシア側の銃撃で日本人の死者が出た。日ロ間の懸案である北方領土問題が長年にわたって停滞しているツケが、一気に噴き出した形だ。
 花咲ガニ漁の根室の漁船第31吉進丸が、北海道が定めた調整規則ラインからはずれて操業していた可能性があり、暫定的な国境である中間ラインも越えた疑いがもたれている。依然船長が拘束され取調べを受けているが、日本の立場は銃撃への過剰警備を抗議するしか手立てはないのだろうか。
 日本は北方領土を固有の領土としてきたが、第二次世界大戦後旧ソ連とロシアが実効支配して以来、拿捕が繰り返されてきた。中間ラインは1952年に設けられた苦肉の策。それでも越境しての漁は後を絶たず、日本の防衛情報の見返りに操業させてもらう「ルポ船」や高速密漁船「特攻船」も出現した。96年北海道側に緩衝水域の自粛ラインを設定02年に一部修正されて調整規則ラインとして現在に至っている。
 それにしても不可思議なのが98年に締結された日ロ漁業協定である。この協定で貝殻島周辺海域での日本船によるホッケ、タコ、スケトウダラ漁が可能になったが、カニ漁は禁止。そのうえ違反操業を取り締まる管轄権が明記されていないため、船長解放交渉の足かせになっている。管轄権を認めることは相手の領有権を認めてしまうことになるためだ。
 今回の拿捕の背景には、この海域での日本以外の漁船による密漁と資源枯渇への危機感もあると言う。ロシアから日本に輸入されるカニの量はロシア内での水揚げを上回っているデータからも明らかだ。原油高による好景気のプーチン政権、北方四島を含む千島諸島の発展計画が進行している。打開の目途は五里霧中。(辰)

(18年9月4日号掲載)

 我が国の自殺者数は8年連続で3万人を越えている。かつて「交通戦争」と呼ばれた交通事故死者だって8千人なのに4倍以上、毎日89人が自らの命を絶っている。
 人口10万人当たりの自殺者数は先進国ではロシアに次いで2番目。原因は健康問題46%、経済・生活問題24%と警察庁は分析しているが、うつ病を忘れてはならない。05年の総死亡者の死因のトップはガンだが、20代と30代では自殺が多いのが気にかかる。自殺者の背後に10倍の未遂者がいるといわれている。
 自殺に歯止めをかけようと立ち上がったのが東京都のNPO「自殺対策支援センター ライフリンク」。10万人の署名を集め法制化を促し、自殺対策基本法の成立にこぎつけた。
 同法は@自殺防止の調査研究・分析A自殺問題の普及、啓発や人材育成B医療体制の整備C自殺未遂者や自殺者の遺族、民間団体への支援等を盛り込んでいるが、自殺率11年連続全国1位の秋田の取り組みは参考にしたい。
 県と大学、民間団体が協力して心の健康相談や仲間づくりのモデル事業を実施し、うつ病の可能性の高い人には専門家が面接に当たるなどして自殺率を2年連続で減らした。フィンランドでも自殺未遂者のケア、遺族に対する支援などで3割減らした報告がある。
 また、うつ病専門病棟の普及に取り組む福岡県大牟田市の不知火病院は自殺者がこの8年間でゼロ。うつ病患者と家族のための自助グループ「うつ・気分障害協会」(MDA-JAPAN)代表の山口律子さんは「うつ病は治る病気とされているが、患者や家族に正確な知識がないため、医療機関にかからなかったりして長引かせてしまうケースが少なくない」と言う。自殺の背景には包容力をなくしたうそ寒い社会の一端が浮き彫りにされている。(辰)

(18年8月24日号掲載)

 モラルハザードと言う名の妖怪が跋扈している。モラルとは道徳倫理、他者に強要されるものではないが、危機に陥っている。日本人特有の「恥じを知る文化」「仁・義・信・徳」と言った崇高な理念は何処に言ったのだろう。
 衣食足りて礼節を知る、といわれたのに、高度経済成長、偏差値教育、学歴社会、中流家庭の実現の中で、礼節は忘れ去られ、痩せたソクラテスより太った豚に成り下がってしまったようだ。
 1998年の高速増殖炉もんじゅの爆発事故からモラル崩壊の危機が顕著になった。新幹線高架道でのコンクリート剥奪事故、もんじゅでは翌年臨界被曝事故が発生。2000年には雪印乳業の大量中毒事件が起き、二年後には日ハムによる輸入肉偽装事件が起きている。
 三菱ふそうのリコール事件、JR西福知山線の脱線事故、一級建築士の耐震構造偽装事件、松下電器産業の温風暖房機の一酸化中毒事件、今、パロマ工業の瞬間湯沸し器一酸化中毒事件が指弾されている。これらの事例がすべて作為とは言い難いが、「想定外」の言い訳で片づけて欲しくない。
 京都大学総合人間学部教授の中西輝政氏は「豊かさがもたらすモラルの低下」という論説で、恵まれているが故に活力が失われ、モラルが崩れると指摘している。振り返ってみよう。
 物質的豊かさの中で他人を省みる事はあっただろうか。核家族化の進行に祖父母への思いやりは欠けていなかっただろうか。偏差値教育は子供の個性を評価していただろうか。
 戦後日本を支えてきた「きつい、汚い、危険」な仕事は3Kという蔑視の中で廃れていく反面IT産業と言うカイブツが徘徊し、モラルを破壊している。これで良いのか日本。(辰)

(18年7月20・24日合併号掲載)

 「ゼロ金利政策」が解除された。01年3月以来、5年4ヵ月ぶり「ゼロ金利を維持し続けると、設備投資が行き過ぎ、景気が過熱する」からだと言うが、米国経済の減速やインフレ懸念の高まり、世界的な株価の不安定な動きに、今回の解除はタイムリーな政策だったのだろうか。
 日本銀行は99年2月世界的にも例の無いゼロ金利政策を採用。00年8月に一旦解除したが、ITバブルの崩壊などで景気後退を余儀なくされ、01年3月に再度金利をゼロに据え大量の資金を供給し続ける「量的緩和政策」を導入した。今年3月に景気回復を理由に量的緩和政策を終結、ゼロ金利解除の時機を探っていた。
 今回の金利は金融機関が期間一年未満で資金を貸し借りする短期金利(無担保コール翌日物)で、0・25%に引き上げられた。これにより預金金利やローンの金利も上がった。
 ゼロ金利は預金の利息が雀の涙となって預金者を圧迫した一方で借り入れの多い企業や銀行の金利負担が軽くなった事で助かった一面もある。内閣府の試算によると
、預金利息の目減りは21兆2千億円。一方、住宅ローン等の返済負担軽減が6兆9千億円、企業の借り入れ負担は軽減され21兆8千億円もの恩恵があった。この事は預金の利息を犠牲にして企業や金融機関を支えたと言える。また日本で調達した資金を金利の高い海外で運用するジャパン・マネーの風潮もつくった。
 不況やデフレが進む中で日銀はゼロ金利政策を取らざるを得なかったとしても、金融機関の不良債権処理の不徹底、バブル崩壊後の金利引下げの遅さ等打つべき手を打たなかった批判を忘れてはならない。今回の解除が福井総裁の村上ファンドバッシング隠しにならない事を願う。(辰)

(18年7月20・24日合併号掲載)

 制定以来60年、一度も変えられなかった教育基本法の改正案が継続審議になった。今、何故法改正なのか。
 文部科学省は「子供のモラルや学ぶ意欲の低下、家庭や地域の教育力低下、若者の雇用問題」を理由に挙げるが、必要性と緊急性が伝わらない。法が教育目標として心の問題まで定めて良いのか、行政は教育現場に何処まで関与出きるのか、これを機会にジックリ審議してもらいたい。
 現行の教育基本法は国家のために自己犠牲を求めた教育を転換するため、敗戦から1年1ヶ月後の46年9月、旧文部省の会議室で審議が始まった。個人と公の関係を焦点に「個人の尊厳を重んじ」「民主的で文化的な国家の建設」など自由尊重の精神を練り上げていく。
 しかし明治天皇の言葉として神格化された「一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ…皇軍ヲ扶翼スヘシ」と説いた教育勅語の評価が消える事は無かった。戦前との非連続と勅語は正しいとする連続の二つの水脈は、今も流れている。
 新しい基本法は「我が国と郷土を愛する態度を養う」(与党)「日本を愛する心を涵養する」(民主)所謂「愛国心」という心の問題を教育目標に盛り込み、家庭や地域に役割と責任をもたせる。行政の教育現場への関与は、教育権の独立を定めた現行法10条の果たした役割をどう評価するのか、定かでない。
 愛国心は日の丸や君が代のチェックのように、儀式で形にされ易くはないか、心配だ。若い世代に日本への愛着を持たせるには、日本を知ってもらう事が大事。歴史教育で腑に落ちないのが近現代史が時間切れで教わらない事だ。
 いい教育が法律で確保できるとは思えない。法はあってはならない教育を防ぐ事しか出来ないのではないか。羅針盤がふら付いていて心許ない。(辰)

(18年7月6日号掲載)

 「霞ヶ関の底なし沼」「だめな組織の代名詞」「こんな社保庁いらない」「解体しかない」等と幾度も批判を浴びてきた社会保険庁を改革する法案が、あまりの不祥事に今国会審議停止、先送りとなった。成立はどうなるのやら。先送りは何も解決しない事はこれまでの例でお分かりのはずだが、と言っても馬耳東風。
 社会保険庁。厚生労働省の外局で、年金事業や政府管掌健康保険等の実務を担当。都道府県単位に地方社会保険事務局、その出先として社会保険事務所がある。職員は全国に1万7500人。
 今国会では社会保険庁の廃止や国民年金保険料の未納対策を盛り込んだ社会保険庁改革関連法案の審議が始まっていたのに、あろうことか各地の社会保険事務所で国民年金保険料免除の無断申請が発覚した。その件数は留まる所を知らない。16万件とも報道されている。
 国民年金法は保険料免除・猶予の手続きの際は被保険者からの申請を前提としているのに、申請がないのに申請書を偽造していたものもあった。保険料が免除されれば、全額納付済みの3分の1に減額されるが、年金はもらえる。半額免除は3分の2、知らなかった。
 個人情報のずさんな扱いや裏金問題で厳しい批判を浴び“起死回生”の切り札として、損保ジャパン取締役の村瀬清司氏が初の民間人長官として社会保険庁入りしたが、保険料の納付率向上を最大目標にした手法が、裏目に出たようだ。甘い体質にどっぷり浸かった組織には、民間のノルマも机上の空論でしかありえない。
 何にしても社保庁を廃止して年金と医療の2部門に分け、年金は税金と同じ部門が徴収するのが望ましいのだが、職員を温存して看板だけを替えるような機構改革だけは止めて欲しい。(辰)

(18年6月22日号掲載)

 八紘一宇、大東亜共栄圏の名の下でのアジア進出、真珠湾攻撃に始まった太平洋戦争の敗戦国日本の戦争指導者を裁いた極東国際軍事裁判(東京裁判)から60年が経った。国民が知らなかった事実を暴いた「歴史の法廷」か戦勝国の「勝者の復讐」か。裁判をめぐってはいまだ論争が絶えない。
 新聞の世論調査で東京裁判の内容を知らない人が7割、20代の9割がこの戦争を知らないという。戦争への裁きは私たちに教訓を与えているのだろうか。
 この裁判は日本の侵略戦争を断罪し、政治家や軍部の責任を問うたもので、25人が有罪になり、東条英機元首相ら7人が絞首刑になった。天皇は起訴されず証人にも呼ばれなかった。国体護持が敗戦受け入れの絶対条件だった日本と占領統治に欠かせない存在とみた米国の利害一致が、昭和天皇の戦争責任を不問にした。
 判事は戦勝国だけで構成。原爆を投下した米国は裁かれない。新しく設けられた「平和に対する罪」「人道に対する罪」で裁く事の是非など問題点が多い。
 しかし、汲み取るべき遺産も多い。虐殺や関東軍の謀略が明るみに出た。関東軍防疫給水部である731部隊は生物兵器製造工場で生体実験やコレラ、タンソ菌などの病原体の生産を行っていたが、米ソ冷戦の戦略から免責となる。
 焼ききれなかった書類から国の指導層の場当たり、先送り、責任回避といった現代にも通じる考えが読み取れる。
 この裁判はナチスを裁いたニュルンベルク裁判と共に、戦争を裁く国際法の流れの先駆けとなり、国連旧ユーゴスラビア戦争犯罪法廷への道を築いた。02年7月の国際刑事裁判所の発足に受け継がれる。歴史を知らずして過去を判断できない。無関心は何も解決しない。(辰)

(18年6月8日号掲載)

 一億総中流と言われた日本社会に「格差拡大」社会が到来している。内閣府が月例経済報告に提出した「ジニ係数」を根拠に内閣府も小泉首相も所得格差の拡大は見かけに過ぎない、としているが果たしてそうであろうか。
 ジニ係数は所得格差を測る指数で0なら完全な平等、1に近いほど格差が大きいのだが、総務省の就業構造基本調査では男性のすべての年齢層で上昇しているのに、世帯ベースで見た高齢化世帯主の年齢が上がっている事と核家族化や単身世帯の増加のため、たいした事ではないと説明する。
 しかし、貯蓄残高ゼロ世帯の割合が05年、23・8%に増え、平均所得の半分しか稼いでいない人の割合を示す貧困率は、00年は15・3%と先進国中米国、アイルランドに次いで3番目の高さ。所得再分配調査でみると、80年代前半まで高所得層の当初所得が低所得層の10倍だったのが02年には168倍になった。日本銀行の企業短期経済観測調査では、大企業と中小企業の格差が広がっている。
 法人企業統計をもとに従業員1人当たりの年間給与の変化をみると、04年までの10年間で大企業が1・9%増の582万円だったのに対し中小企業は9・8%減の284万円で、両者の差は42万円増の298万円に広がった。働く口がどの程度あるかを示す有効求人倍率は今年6月で全国平均0・82。最高は愛知県の1・40、最低は青森県の0・33。90年代に導入された成果主義賃金で将来の格差が広がると感じ、デフレと低成長で名目所得が下がり、若年層で失業者やフリーターが増え、正社員との格差が広がっている。
 どう見ても格差が拡大している、と感じざるを得ない。市場原理主義や税の累進度の緩和等が、不平等を助長している、と思いませんか、小泉さん。   (辰)

(18年3月23・27日合併号掲載)

 12日、岩国市で米空母艦載機部隊を受け入れるかどうかの住民投票が実施された。在日米軍再編に伴う神奈川県厚木基地の艦載機57機と要員1600人を岩国に移すものだが、米軍基地受け入れをめぐる住民投票では沖縄県名護市に次ぐもの。沖縄県の普天間飛行場の名護市辺野古崎への移転には、名護市長が修正案を提示、今だ解決の目途が立っていない。
 この米軍再編の狙いは米軍の抑止力維持と地元基地負担の軽減が大きな柱になっているが、どれをとっても地元の頭越しに進められた計画であり、反発を招くのは必至。同時に今回の再編計画には今後の米軍と自衛隊の関係めぐる重要な内容が盛り込まれている。
 その一つがワシントン州フォートルイスにある米陸軍第一軍団司令部のキャンプ座間移転だ。第一軍団はドイツ侵攻を食い止める目的で1918年米国初の軍団として創設。戦後日本の占領統治に従事。太平洋地域を対象にした緊急事態への対応任務を負っている。日本の陸上自衛隊とは「ヤマサクラ」の名で演習を実施、自衛隊幹部がフォートルイス基地に常駐している。
 今回の米軍再編計画の陰に所謂「制服組」の積極的な関与が指摘されており、シビリアンコントロールがないがしろにされていないか、心配だ。と同時に米戦略の一端を担う同盟強化で集団的自衛権の行使が危ぶまれる。
 沖縄の海兵隊削減数が8000人に増えたが、移転費用の80億トンは調整中。米軍専用施設が県全体の75%を占めている沖縄県民にとって、負担軽減とは目に見える形で基地が減る事であり、駐留米兵の数ではないはずだ。イラクへの自衛隊派遣の際の特措法、憲法九条改正、防衛庁の省への格上げ等忍び寄る“軍靴”の音に敏感でいたい。  (辰)

(18年3月13日号掲載)

 道路公団民営化の理念は何だったのだろう。昨年10月の道路関係4公団民営化後初めて開かれた国土開発幹線自動車道建設会議で、整備計画の全線が建設される事になった。「無駄」「不要」と指摘された計画路線も整備される、という。小泉後をにらんだ族議員たちの失地回復なのか。
 そもそも公団民営化は40兆円を超える借金を国民の負担無しにどう返すか、そのために無駄な道路をこれ以上造らない、というものであった。それなのにである。
 この建設会議は国土交通相の諮問機関であり自民党三役や財界首脳ら20人で構成。99年に決めた全国9324`の高速道路網の整備計画のうち、未定分1276`の整備方針を決めた。高速道路会社が造る有料道路の建設費が10・3兆円、国と地方が税金で作る新直轄道路が3兆円見込まれている。
 小泉首相が自ら人選して設置した民営化推進委員会では第2東名や第2名神の建設は凍結だったが、建設する構えだ。第2名神にいたっては京滋バイパスが並行しており、09年には6車線の第2京阪道路が開通するにもかかわらず、である。
 新直轄方式は、建設費は国が4分の3、地元が4分の1を原則負担、通行無料となる。地方の建設費の対費用効果は想定内なのか。東北中央道(東根―尾花沢、23`)を山形県は手放しで喜べるだろうか。
 40兆円の債務45年完済が公団民営化後の責務だが、この計画では見通しが暗い。道路は社会資本だ、と建設推進の論拠にするが、過去に建設された道路の維持費もばかにならない。コスト縮減は大事だが手抜き工事であってはならない。
 小泉改革の骨抜きと言える今回の決定、リーダーシップのない丸投げに原因があった、と言えないか。(辰)

(18年2月23日号掲載)


 経験主義の哲学者フランシス・ベーコン、地動説を唱えたコペルニクスたちの錬金術師たちも真っ青。ライブドアの破綻は卑金属に替えて株で金を生み出したが、そこは錬金術砂上の楼閣だった。
 錬金術は古代エジプトから始まり、イスラムを経て中世ヨーロッパに伝わりルネッサンスで絶頂期を迎えた。18世紀にイギリスのドルトンが、すべての物質は原子から成り立っている事を証明して、卑金属から金を製造する事は不可能と認識された。
 しかし今、株券が途方もない金を生み出す時代になった。IT(情報技術)の幕開けと共に大量の情報が、ボーダレスで世界を駆け巡り、一瞬の内に億万長者が出現する時代だ。IT時代の寵児ともてはやされ、勝ち組の代表格であった堀江貴文容疑者。
 東大在学中の96年、借金した600万円を元手にインターネットのホームページ制作などをする「オン・ザ・エッヂ」を設立してから10年。時価総額約1兆円に達するまでに上り詰めたその手法は、株式分割と投資事業組合の利用と株式交換。
 株式分割で買い注文と大量の株券発行の時間差を突いて株価を引き上げることが出来たのは、01年に商法が改正され1株当たりの会社の純資産が5万円を下回るような株式の分割禁止が撤廃されたからだ。所謂規制緩和だ。
 登記の必要も無く情報開示の義務も無い投資事業組合は、大量に株式を取得しても情報開示を遅らせる事が出来る。現金がなくても買収する側に自社株を交付する株式交換は特に規制されるものではないが、株価を吊り上げれば買収は際限なく出来てしまう。
 米国のエンロンとワールドコムの破綻は対岸の火事に過ぎなかった事を浮き彫りにした。それにしても監査法人の責任は。    (辰)

(18年2月13日号掲載)

 ポスト小泉レースがかまびすしい。来年秋の自民党総裁選に小泉首相が出馬しない、と明言したからだが、第3次小泉内閣がスタートして3ヶ月弱、もう前哨戦がスタートした勢いだ。
 マスコミの俎上に挙がって有力視されているのが、いずれも祖父や父が国会議員だった麻生太郎外務大臣(65)安倍晋三官房長官(51)谷垣禎一財務大臣(60)元官房長官福田康夫氏(69)の4氏。
 20日には小泉首相の施政方針演説があり、改革路線の成果を強調し、後継者にはこの路線を引き継いでもらえる人になって欲しい、という。改革路線の中身は自画自賛するほど成果が果たしてあったろうか。
ここにきて耐震偽装問題に絡み伊藤公介元国土庁長官の疑惑が浮上、先の総選挙に担ぎ出したライブドアの堀江貴文社長が、23日証券取引法違反容疑で逮捕された。官から民への流れに沿った規制緩和と市場主義の弊害でなくてなんだろう。
 政権の終章はレイムダック(死に体)になるのだが、先の総選挙で圧勝した小泉首相にはその兆候が無い。しかし、まだ有終の美を語るには早過ぎる。改革がもたらす具体的なビジョンをポスト小泉候補へバトンタッチする責務がある。
 そこで俎上の4氏だが麻生氏は「バカヤロー解散」に追い込まれた吉田茂氏の孫。安倍氏は、総理大臣を目の前にして志半ばで倒れた晋太郎氏の息子。谷垣氏は文部大臣を務めた専一氏の息子。福田氏は元首相の赳夫氏の息子。いずれ劣らぬ“名馬”ぞろい。
 歴代の総理大臣は閣僚経験者で自民党三役(幹事長、総務会長、政調会長)の経験者がなるのが常道だが、三役無経験の小泉首相の例もある。小泉劇場のサプライズは第二幕でもあるのだろうか。(辰)

(18年1月26日号掲載)


 少子化が叫ばれて久しいが、日本の総人口がついに前年を下回った。戦争の影響を受けた45年を除いて初めての事。政府の予測より2年早いと言う。
 総人口とは日本に住む日本人と外交官を除く3ヶ月以上定住している外国人の数。日本人の出生数と死亡者数の差を表す人口動態統計でも1万人の自然減となった。 
 このままでは1億2800万人の人口が2050年に1億人となり、2100年には6400万人に半減する、と言う予測もある。これは大恐慌が始まった昭和4年頃の人口に匹敵する。
 人口が減ると労働力が減り、年金などの社会保障で現役世代の負担が増え、07年にはすべての受験生が大学・短大に入学できる時代が、数字上訪れると言う。
 少子化は74年から顕著になり、人口を維持するのに必要な合計特殊出生率(女性一人が産む子供の数の平均)が2・1を下回り、以後坂道を転がり始めていた。
 「1・57ショック」をご存知だろうか。丙午の66年を下回った89年の出生率を言うのだが、これをきっかけに政府は保育サービスの充実を盛り込んだ「エンゼルプラン」を94年に策定している。99年には「新エンゼルプラン」、03年少子化社会対策基本法を成立させ、首相、全閣僚による「少子化社会対策会議」を設置、04年「子ども・子育て応援プラン」を策定したものの低下に歯止めはかけられず、04年1・29まで落ち込んだ。
 05年猪口邦子氏が専任大臣に就任。来年度予算に1兆457億円の少子化関連予算が計上された。「子育てと仕事の両立支援、若い子育ての世代への経済支援」を強調しているが、所得格差が広がり、精子が希薄化している男と化粧とブランド漁りに忙しい女に繁殖の情熱は有りや無しや。(辰)

(18年1月19日号掲載)

 今年も残りわずか、文字通り師走を感じながら、メディアを賑わしている事件事故を考えてみた。
 耐震強度の偽装問題は、国会で証人喚問がなされたが、白黒はっきりせず。質問者が攻め切れていない。問題の背景には建築基準法の緩和、建築確認事項の民営化、チェックシステムの不完全さが浮き彫りになった。
 耐震偽装に政府が建て替えまで支援する事に不公平は無いか。地震や集中豪雨などの被害時には個人の資産形成に税金を出すべきでない、が原則。阪神大震災では壊れた建物を災害廃棄物とみなし解体を公的に支援した。昨年改正された被災者生活再建支援法では解体費の補助が認められた。
 医療制度改革の大綱が発表されたが、負担増を高齢者に押し付け、75歳以上の後期高齢者を対象とした医療制度を新設し、国と地方が協力し医療費の伸びを押さえる計画をつくるという。全市町村が加入する広域連合の運営母体は責任を持てるのか、医療費を計画どおりに押さえられない時の措置は。
 アメリカ産牛肉の輸入が2年振りに解禁される。食品安全委員会は米国産と日本産のリスクの科学的同等性の評価が困難なのに、解禁に踏み切った。何故。厚労省や農水省の“圧力”を「学者集団なのだから科学の事だけ考えていれば良い」(厚労省)「暴走(手前勝手)は許さない」(農水省)に感じる。
 東京証券取引所の度重なるミス。国内に存在を脅かす競争相手がいない、旧大蔵省の支配から離れ、生え抜きが経営を握っている。そこに甘えは無いか。誤発注と知りながら株を取得した他の証券会社の美しくない行動。大臣が言った行動の美学に、凛とした響きを感じながら新年を迎えたい。(辰)

(17年12月19日号掲載)

 「三位一体改革」に目途がついた、という。03年から始まったこの改革は、地方がすべき事は地方自ら決定するという、地方自治本来の姿の実現を目指すもので、その中身は3兆円の税源を国から地方自治体に移し、その原資として4兆円の補助金を廃止、削減する、地域格差を埋めるための地方交付税の見直しを同時に実現するものであった。
 05年のタイムリミットを控え、補助金削減の目標値に足りなかった6千5百億余円にやっと目途がついたからだが、省庁間の既得権益争いと族議員のしがらみはここでも飽く事無く繰り広げられた。
 6千3百億円の補助金削減の要求に対し、厚生労働、国土交通、農林水産各省がゼロ回答。互いの既得権益を手放さないで他の出方を探る、と言う様子が続いた。ここにきて厚生労働省が歩み寄り、生活補助費の削減を見送り、義務教育費の国庫負担金は、小中学校教職員給与に対する国庫負担率を2分の1から3分の1へ引き下げる事でやっと目標額を達成した。地方が生活保護を勝ち取り義務教育で譲歩した形だ。
 三位一体は基はキリスト教の根本教理の一つ。父なる神、子なる神イエス・キリスト、聖霊である神の三者は同質且つ不可分である、とする教え。
 税財政改革がこれになぞらえたとして、何が父であり、何が子であり、何が聖霊なのか野暮と知りつつつい考えてみるのだが、辻褄合わせの数字ゲームにため息が出るばかり。
 国とのせめぎ合いで存在感を高めているのが全国知事会。補助金の廃止案をつくる際に初めて多数決を採用する等これまでの陳情団的体質から様変わりして来ている。次のステップは県から市町村への権限と財源の移譲。住民の声を反映させる度量を示して欲しい。(辰)

(17年12月5日号掲載)

  天皇制の転機となるのか、小泉首相の私的諮問機関である「皇室典範に関する有識者会議」は、皇位継承者をこれまでの男系男子から女性・女系を容認し、「長子優先」とする方針を固めた、という。天皇制度を永続するための諮問会議ならではだ。
 ところで日本国憲法では天皇を第1章に据え第1条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。第2条 皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する、と定めている。更に第14条では男女平等の原則を定めているが、皇室典範は皇位継承を男系男子に限っており、14条違反といえる。有識者会議が進める女性・女系はこの点をクリアし、第2条は単に皇位は世襲としか定めておらず、男女どちらでも問題は無い。
 宮内庁作成の歴代天皇の系図上で女帝が続いたケースがある。大化の改新を成し遂げた天智天皇の後継をめぐって兄弟が争った「壬申の乱」で有名な天武天皇(大海人の皇子)の後、持統、元明、元正、孝謙、称徳の女帝が即位。神武から125代とされる現天皇まで124回の皇位継承があり直系継承69例、兄姉弟間継承27例、その他の継承28例。うち女性天皇は10代8人であった。
 仮に今回の方針が決まった場合、継承資格者は6人から14人に増え、順位は皇太子、敬宮愛子さまの順になり、弟が生まれたとしても愛子様が9人目の女性天皇となる。
 今回の会議はこれまでの皇室典範の矛盾を軽くする意味合いを持つが、世襲の天皇を象徴に頂く意味や皇室の必要性を国民に問うものではない。象徴天皇は占領政策に利用するために、マッカーサーが苦肉の策で残した事を思い出した。(辰)

(17年11月24・28日合併号掲載)

 「不磨の大典」という固定的な憲法感を抱いてきた日本に新しい憲法が作られようとしている。現在の日本国憲法は敗戦後、GHQから押し付けられた形で成立した、というのが大方の見方であり、この事が戦争を放棄し、軍隊を保持しない平和憲法であっても改憲論者の理論的支柱になり、自主憲法制定へと向かわせている。果たして憲法は書き換える事が出来ない不磨の大典であるのだろうか。
 憲法は最高の法規範である事は間違いないが、国制から見ればその一部にすぎない。憲法を変えても国制が変わる訳でもなし、憲法を変えずに国制が変わる場合もある。また世界情勢の変化につれて条文その物がそぐわなくなる事もある。それが冷戦後以降の自衛隊の海外派遣であり、北朝鮮や中国の脅威に対応する自衛隊の位置付けでの問題である。
 ここに来て自民党が結党50年の集大成とし新憲法草案を発表した。構成は現憲法と同じ前文と10章からなり、2章が戦争放棄から安全保障に改められた。前文は翻訳調からあっさりしたものになったが、平和への熱い思いが希薄化。第9条は1項の戦争放棄を維持しつつ2項に自衛隊を自衛軍と明記。世界有数の装備を持つ自衛隊の現実を“認知”した形だ。しかしそれによって自衛隊がどう変わるのか、どんな役割を果たせるのか、歯止めがあるのか、といった中身が抜けている。米軍再編での自衛隊の役割と絡めて注視したいところだ。
 改憲の手続きが緩和され両院の過半数で改正をし易くした事を評価したい。改正案が国民投票になれば、国民が自ずと憲法を見直すという政治意識を生み出し、その事が国民主権を意識させる契機となるからだ。慎重且つ十二分の議論を尽くして欲しい。(辰)

(17年11月10日号掲載)

 初のストライキから1年、新規球団の参入、交流戦の開催、新ドラフト制度の導入等改革を目指した日本のプロ野球は変化しただろうか。プロ野球界は05年を改革元年と位置付けたが、代わったのは交流試合だけだったように思われる。
 ドラフトでは前年成績の下位球団から指名できるウエーバー方式にならず、大学生・社会人を入札無しで獲れる自由獲得枠を一つにしたが、「希望入団枠」を残した。裏金の不正に対する監視機関の設置や罰則は設けない。FA選手を獲得した球団はドラフトの指名権を譲る、といった戦力均衡の配慮がない。
 新規参入した楽天には各球団から選手を供出してもらうエクスパンションドラフトを希望しても受け入れられなかった。結果は38勝97敗1分の最下位。田尾監督は1年で解任された。選手の補強もせずして球団全体では黒字だった。これがIT界が手がけるマジックなのだろうか。
 各チームの戦力均衡に手をつけないのでは改革ではない。プロ野球と言う興行が成り立つためには戦力の均衡が不可欠。スポーツは経営者だけの物ではなく文化であり、社会的な存在として育てる事が使命ではないか。野球協約は野球を文化的公共財とするよう努める義務を定めているが、空文化している。
 先の高校生ドラフトでのくじ引きでのミスは野球界の当事者能力を疑うのに事欠かない。説明不足だけでなく、くじを引いた側にも確認する慎重さが欠けていた。「自分は確認する立場にないが、弁解の余地はない。反省すべき点はあった」と述べた後「しかし、僕はついてないな」と発言した根来コミッショナー。
 エッ、オイオイ、自分の保身よりくじに身を委ねる高校生への思いやりはどうしたの。老醜は見たくない。(辰)

(17年10月17日号掲載)

 カトリーナ、リタ。何と気性の激しい娘達だろう。赤道近くの大西洋で生まれ、メキシコ湾で育って猛威を振るったハリケーンだ。世界の超大国アメリカで近代都市が水没し、救援活動がつまづき、その上に略奪の無法地帯となった映像を世界中が驚きをもって見つめた。ニューヨークのツインタワーが同時テロで倒壊した時の映像とは違った意味の悲惨な光景が、そこにあった。これもアメリカの現実だ。
 ハリケーンの巨大化は地球温暖化が影響している、との見方もあるが、定かでない。しかし、海水温は確実に高くなっている。
 水没したニューオーリンズはミシシッピ川の河口にあり、川と湖に挟まった海面以下の低い地域であり、両側がコンクリートの堤防で守られているだけの心細い町だった。素人が見ても大雨があればいつ決壊しても可笑しくないお粗末な堤防だった。
 災害対応を担う連邦緊急事態管理庁(FEMA)の昨年の図上演習では、貧困層や高齢者など10万人以上が取り残される可能性が指摘されていた。避難指示が出ても市民の反応は鈍く、避難する道路は渋滞で身動きが取れない。人口の7割を占める黒人は車を持たないのにバスが用意されなかった。避難先から隣の州に移送されるまで6日間の避難生活を余儀なくされ、略奪が始まった、という。
 ハリケーン防災事業の予算は今年、要求額の5分の1の6億円。その背景にはイラク派兵の負担増等による予算削減が指摘されている。ここに来てガソリンの高騰が世界経済を揺るがせている。ブッシュ大統領再選の中間選挙の足かせになれば、父親の二の舞いは避けられない。台風の多い我が国は他山の石とし人災にならないように備えたいものだ。(辰)

(17年10月6日号掲載)

 57年振りの快挙も後味が悪かった。第87回全国高等学校野球大会で昨年に続き夏の大会を連覇した南北海道代表の駒大苫小牧高校に暴力事件が発覚したからだ。学校側は事件を知りながら大会が終わるまで隠し通した。大会直前に暴力事件が発覚して出場を取り消された高知県の明徳義塾の例があったにもかかわらず。
 野球に限らず様々なスポーツがあるが、事、高校野球に対する球児と父母、関係者の思い入れ、情熱は並々ならぬものがある。「甲子園」は高校球児の憧れの舞台だ。メディアの報道も過熱気味で、今や国民的イベントだ。注目選手はドラフトの目玉になる。プロ野球の土台を支える予備軍であり、スタープレーヤーにもなってしまう。熱くなるのも判らないではない。
 今回の二つの事件に絞って、日本高校野球連盟の対応を比較してみよう。駒大苫小牧は選手に不祥事はなく、部長1人の暴力事件であるのに対して明徳義塾は数人の選手自ら不祥事を起こしていた。明徳義塾が不祥事を理由に出場を辞退して来たので、勝利の取り消し(高校野球特別規則)をしたが、辞退しなくても高知大会の優勝は取り消しになる。駒大苫小牧が大会前に事件が発覚していたら、部長を交代させて出場させていた、という。今大会では他の高校でも問題の選手を除外して出場を認めたケースがあったからだ。
 つまり指導者、大人の問題で生徒、選手に責任を取らせないということだ。それでも溜飲は下がらない。高野連が審議した不祥事は昨年度、493件あったという。背景の一つとして大規模チームの増加が考えられる。全国から優秀選手を集めたり、留学生選手も見かける。フェアプレイの精神は、球児だけでなく指導者と父母にも求められている。(辰)

(17年9月19日号掲載)

 これまでにない分かりやすい衆議院総選挙が戦われている。否決された法案の是非を国民に問う反面、政権交代が起こりうる選挙でもあるからだ。
 解散は小泉首相が総裁選でも先の衆参両選挙でも公約にしてきた郵政民営化法案が参議院で否決されたためであったが、前代未聞とは言え内閣を維持できない判断として解散は可能だ。公然と造反した反対派の行動は、政党政治の原則からいって許されない。
 造反議員が公認されないのは至極当然の成り行きだ。権力が欲しいという思いが先に立って、政策は曖昧なまま妥協を重ねてきた明治以来の自民党密室政治の打破その弊害を断ち切る態度を評価する。郵政民営化の根本は郵貯や簡保に流れ込んだ巨額の資金が財政投融資の形で無駄な公共事業や特殊法人の温存につながり、国債を買い支える事で、国の借金を800兆円に膨らませた道を断ち切る事であり、公務員26万人の削減という行政改革でもある。廃案にする事は断じて許されないのだ。
 しかし、国民の関心は郵政民営化より年金改革や少子化対策などの社会保障制度の見直しに向いている。小泉首相は郵政改革を本丸と言い、改革の入り口だと言う。四年間も日本の舵取りをして来てまだ入り口とは、片腹痛い。4年余の小泉政治の総体を採点する選挙でもある。
 首相が勝っても今の参議院のままではまた否決もあり得るし、小泉さんが首相に再選される保証もない。負ければ退陣すると断言した。野党の郵政民営化反対理由が今いち明確でなく、甲乙つけ難い。
 ここは各党が掲げているマニフェストをよく読み、大切な一票を投じたい。改革には痛みが伴う事を肝に銘じ公約のチェックは欠かせない。(辰)

(17年9月8日号掲載)

 小泉純一郎首相が8月15日の靖国神社参拝を見送った。国連常任理事国入りの“挫折”と六カ国協議の延長に加え衆議院解散総選挙が、重なったためだ。我が国の総理大臣の靖国神社参拝が、何故これ程までに注目されるのか靖国神社の生い立ち、政教分離、A級戦犯合祀の観点から考えてみたい。
 靖国神社の前身は明治2年に創建された東京招魂社、同12年に靖国神社に改名され、幕末から大東亜戦争までの軍人軍属の戦没者247万人を祀っている。戦死した人たちを追悼し英霊として祀ることで、名誉を与え、遺族の精神的支えになって、きた。戦死者が顕彰され、遺族がそれを喜ぶ事によって、次の戦争に国民を駆り立てる役割を担ってきた。
 祭主は天皇「お天子様」であり、日本人の生と死を聖なる行為と信じさせるという意味で、戦没者祭祀の中心的施設としての地位を固めた。所謂国家神道になったのだ。
 敗戦後、GHQが発した「神道指令」によって国家神道の解体と政教分離の導入が図られると、靖国神社は単立の宗教法人としての存続を選択した。憲法20条は政教分離を規定しているが、首相の参拝がこれに抵触する、というのがこれまでの判例だ。同89条では玉串料等の公金支出を禁止している。
 A級戦犯とは、極東軍事裁判=東京裁判で平和に対する罪で裁かれた東条英機元首相等28人を言い、昭和53年に合祀された。韓国や中国はこれら戦争遂行責任者が合祀されているが故に、首相の参拝に反発している。A級戦犯は、国際法にないこじつけた刑罰との異論もあるが、国民自ら戦争犯罪人を裁かずして何をか況や。
 死者を赦す文化とは言え、首相の靖国参拝は憲法に抵触する意味で自粛すべきだ。(辰)

(17年8月22日号掲載)

 官民癒着の懲りない面々。「公団副総裁逮捕」の見出しが躍った日本道路公団が発注する鉄鋼製橋梁工事の談合事件は、官製談合だった。公団の現役幹部が受注者を事前に指名する「天の声」を出す際、予定価格も漏らしていたという。
3年前に官製談合防止法が、北海道庁発注の農業土木の談合事件を契機に生まれているが順法精神の欠片も感じられない。10月の民営化まえでも、公団総裁の責任は免れない。悪足掻きは止めろ。
 この談合の根は深い。50年前から組織を作って受注調整を繰り返してきた。公団OBの採用が工事発注の見返りとなり、天下り先を確保するために受注調整役を引き受ける。OBが工事発注計画の情報を集め、配分表を作る。先輩がくれば現役は知らん顔できず情報を漏らす。業者は高値発注の分け前にありつき、官は再就職先を確保する。これが官と業の癒着である。
 談合抑止の切り札として99年から採用している「総合評価方式」がある。技術提案に対する評価を点数化し評価値の最も高い社が落札する仕組みだが、ここでも事前のすり合わせがあったといい、切り札も“肩なし”だ。
 談合した場合の大企業の課徴金を受注額の10%にする改正法が、来年1月に施行されるが、経団連など経済界が難色を示していては、抑止効果は薄い。奥田碩経団連会長の「談合は慣習のようなものであり、一気になくすのは難しい」に根深さが象徴されている。
 日本経済の強さや閉鎖性、不明朗さを感じさせる言葉として、英字辞典にも載っているdango(談合)。公共工事削減の煽りで受注減を食い止めたい業界と公正取引委員会のイタチゴッコは、天下り全面禁止と罰則強化で解決しないだろうか。英断を!(辰)

(17年8月4日号掲載)

 「恥ずかしながら生きて帰ってまいりました」。1972年故横井庄一さんがグアム島から生還した時の言葉である。その二年後ルバング島から小野田寛郎さんが帰還。そしてまた、フィリピン・ミンダナオ島からの旧日本兵生存の情報が飛び交った。
 この情報の真偽は別にして、いまだもってして旧日本兵の情報はニュースバリューが高い。だからマスコミと外務省が翻弄された。戦後処理が終わっていない証だ。戦後60年たった今でも慰安婦や強制労働などの“負”の補償問題が再燃する。
 戦後処理で比べられるのが同じ敗戦国のドイツ。ヒトラーの蛮行を大統領自ら批判し、ユダヤ人居住区の慰霊碑の前でひざまずいたブラント首相。片や我が国は十年前に、村山富市首相の「植民地支配と侵略への心からのお詫び」談話があり、四月のバンドン会議50周年の首脳会議で小泉首相が再引用したけれど、評価が低い。
 被害者へのお詫びは国民の代表だけがするものとは限らない。高度経済成長を成し遂げ、今では総中流家庭を築き上げた日本国民は、この間、植民地だった人たちの生活の事を考えた事があるだろうか。「骨は骨として 勲章をもらい 高く崇められ ほまれは高し なれど 骨はききたかった がらがらどんどんと事務と常識が流れ故国は発展にいそがしかった 女は化粧にいそがしかった」
 この詩は太平洋戦争に従軍、23歳で戦死した竹内浩三が書いたもので、戦後出版された詩集の「骨のうたう」の一節。竹内の生き様は第36回大宅壮一ノンフィクション賞受賞作「僕もいくさに征くのだけれど」竹内浩三の詩と死(稲泉連、中央公論新社)に描かれている。敗戦濃厚で出兵し、捕虜の辱めを受けないように教育された旧日本兵やあわれ。(辰)

(17年7月18日号掲載)

 国連の安全保障理事国入りを目指している我が国の道が揺れている。米国が、我が国など四カ国が提唱している包括案とは程遠い新常任理事国二カ国増、拒否権無しの新方針を明らかにし、小泉首相が支持しない旨を表明。このままでは採択の目途が立たない。
 アナン事務総長が国連改革を提唱したのが昨年3月。改革案は安保理の構成国を増やすと共に常任理事国も増やし「拒否権」を与えるか否かがポイント。
 これを受けて、これまで常任理事国入りには慎重または否定的発言が多かった小泉首相が豹変、国連の演説でその理念を「平和と繁栄に向けて尽力する国際社会において名誉ある地位を占めたいと考える日本国民が大切にしている根源的な信念に基づく」と述べた。が、近隣の韓国、中国は賛成していない。
 国連創設から60年。安全保障理事国は第二次大戦の勝者を軸に構成され、拒否権を持つのは米、英、露、仏、中の五カ国だけ。創設時51カ国だった加盟国は191カ国に増えた。
 我が国はドイツ、ブラジル、インドの四カ国で安保理の構成国を現在の15カ国から24カ国にし、常任理事国を5カ国から11カ国に増やし、新常任理事国にも拒否権を与える「枠組み決議案」を目指している。この案に米国が反対、新方針表明となったが、強大国の事態複雑化であり、単独行動主義の影がちらついている。
 分担金が米国についで二位の我が国は「財政面で貢献しているのに何ら地位を得ていない」との不満もあろうが、アジア諸国に後押しされる形で常任理事国になるのが望ましくないだろうか。
 今回の改革で国連憲章から、連合国の敵と烙印を押されていた我が国への「旧敵国条項」がやっと削除される。その意味は大きい。(辰)

(17年7月4日号掲載)

 イラクで警備員として働いていた日本人の斎藤昭彦さんが、銃撃戦の末死亡した。元自衛隊員でフランスの「傭兵」であったこともあるという。日当六万円の短期契約で、身を守るのは武器と腕、という事は、死と隣り合わせの生き方を選んだ覚悟の結末と、いえないだろうか。そういう意味で、これまでのボランティアを対象とした人質事件とは異質の問題だ。
 斎藤さんは英国の警備会社「ハート・セキュリティー社」に勤務、米軍基地の警備に当たっていての出来事。このような警備会社は、東西冷戦後の軍縮や米国の9・11テロの後急成長、元軍人達の利権の温床になっていると言われ、その実態はP・W・シンガー著「戦争請負会社」(NHK出版)に活写されている。
 戦争請負会社の実態は構成員が軍隊のOBであり、しかも将クラスの司令官が設立。冷戦後出回っている武器を公然と買い漁り、数百人規模で紛争を解決できる能力を持つプロ軍団である。これらの会社は、世界五十ヶ国以上の紛争地で活動し、年商千億ドル(十兆円余)を稼ぎ出している。
 傭兵で思い出すのは映画「モロッコ」で描かれた外人部隊。第一次世界大戦後の1930年製作の米国映画で、主演はゲイリー・クーパーとマレーネ・ディートリヒ。映画では傭兵と踊り娘の儚い恋を描いているが、現実は凄惨だ。
 スペイン内戦の時、作家のヘミングウエイが独裁者のフランコ総統軍と戦った事があったが、傭兵ではなかったはず。いずれにしても戦争は得る物がなく失う物が多い。
 戦争は軍隊=公が行うものとなっていた領域に、請負会社と言う民が参入してきた形で、しかもグローバル化している事にシンガーは憂えている。歯止めは利くのだろうか。(辰)

(17年6月20日号掲載)

 日本と韓国は隣国にありながらいまだもって近くて遠い国だ。日本海に浮かぶ「竹島」で領有権問題が再浮上、過去の歴史認識を見直しかねないほどヒートアップしている。
「竹島」は島根県隠岐島の沖合い157キロにある東嶋(女嶋)と西島(男島)と数十の岩礁からなる0・23平方キロの無人島。日本の関わりは17世紀初頭、江戸時代初期にさかのぼる。竹島は「松島」と呼ばれ、鬱陵島が「竹島」と呼ばれていた。韓国では竹島を干山島(うさんとう)と呼び、朝鮮王朝時代に編纂された「世宗実録地理誌」などに記述がある。「独島」(トクト)とも呼ばれ「独島、われらが土地」という唱歌を知らない人はいない、と言う。
 元々はそんなに仲の悪い国同士ではなかったはず。仏教が韓国を経由して小乗仏教という形で根付き、様々な仏教文化が朝鮮半島から伝わった。歴史で習った百済、新羅の地名は記憶に新しい。あの時代日本はどれだけ恩恵を被っただろう。戦国時代に秀吉が出兵した事もあったが、1905年の保護国化で竹島を日本の領土に組み入れてから第二次世界大戦の戦後処理で両国関係がねじれてくる。
 1951年のサンフランシスコ講和条約では、韓国の独立を承認したが、竹島は含まれていなかった。1952年韓国が公海上に李承晩ラインを設定し竹島を取り込んでしまう。1954年日本が国際司法裁判所に提訴したが、韓国側が応じなかった。1999年に共同管理する「暫定水域」を締結したものの、漁場でのトラブルが耐えない。
 そんな中、島根県が二月に「竹島の日」の条例を制定したため、反発は教科書問題や植民地支配にまで及んでいる。六月の首脳会談では共通の利益になる「知恵」が欲しい。(辰)

(17年6月6日号掲載)

 私はコロンブスがアメリカ大陸から持ち帰って世界に広まりました。日本にはポルトガル人が伝えました。日清・日露戦争の戦費調達のために使われ、太平洋戦争では「恩賜」の名の下に兵士に配られ国策となりました。
 映画やドラマでは小道具として、様々な有名シーンに利用されました。ストレス解消にも一役買いました。
 普及するにつれ所構わない利用やポイ捨てが反感をかい、ガン、心臓病などの疾病の罹患率が高いなど、これらの疾病の原因と関連がある事が、免疫学的に指摘されるようになりました。
 関連した死者が世界で500万人に達し、日本での死者は毎年10万人、1兆3000億円の医療費が余計かかる、と推計されています。そう今ではすっかり“悪役”になってしまった私は「たばこ」。
 世界保健機関(WHO)は1988年から5月31日を「世界禁煙デー」定め、禁煙支援の推進、未成年者への禁煙指導等に取り組んでいます。煙草による健康被害の防止を目指す「たばこ規制枠組み条約」がこの二月二十七日発効しました。
 たばこの消費を減らすため、五年以内の広告の原則全面禁止と課税強化を促しています。日本では四月からの屋外広告禁止や禁煙教育の強化、分煙の徹底が決まっています。先進国ではほとんどの国が電波媒体でのたばこ広告を禁止していますが、日本はデレビで時間規制しているのみです。
 日本は21年前のたばこ事業法を根拠に、たばこ産業の健全な発展を図る姿勢を崩していません。消費量世界第三位、経済効果は2兆8000億円になりますが、病気の医療費や火事等の保険でのデメリットは5兆6000億円と推計されています。愛煙家、嫌煙家の皆様私は消え行く運命なのでしょうか。(辰)

(17年5月23日号掲載)

 今また「もったいない」という言葉が注目を浴びている。ノーベル平和賞受賞者でケニア環境副大臣のワンガリー・マータイさんが、国連の「女性の地位委員会」閣僚級会議で、環境保護の合言葉として紹介したからだ。
 二月に来日してこの言葉に出会い、感銘を受けたと言う。会議での演説では「もったいない」は消費削減、再使用、資源再利用、修理に繋がる意味を含んでいると解説し、世界にアピールすべき日本の文化だとまで言った。
 それほどまで賞賛された「もったいない」という言葉だが、大量消費に慣れて来た現代の私たちには死語になっていないだろうか。平気で食べ残し、まだ使える物でも新商品が出れば買い換えてしまい、押入れは使い切れない品物で溢れ返っているはずだ。
消費期限を過ぎて捨てられる大量のコンビニエンスストアーの弁当は、ホームレスの人たちの食事を支えた事もあったほど。
 食料自給率40%の我が国でこんな状態がいつまで続くのか、と危機感を抱いていたが、業界が危機感に敏感になり、流石に最近は耳にしない。
「もったいない」は普通勿体ないと書かれるが、本来は「物体ない」。その物が本来あるべき意味と機能を実現できなくなってしまう事を惜しむ心情だ、と僧侶で作家の玄侑宗久さんが書いていた。対価を払えばたいがいの事は済むと思っている今の日本人に「もったいない」は見当たらないとも。
 実体はないが日本人の心のどこかに住み着いている微かな気分のように思える「もったいない」。これからは「TSUNAMI」のように「MOTTAINAI」の標記で国際語になることを祈るばかりだが、彼女の発言を無にしては本当にモッタイナイ。 (辰)

(17年5月12日号掲載)

「焦土作戦」「ホワイトナイト(白馬の騎士)」「クラウンジュエル(王冠の宝石)」「ポイズンビル(毒薬条項)」。ナ、ナ、ナニッ、どこかで戦争が勃発したのかと耳目をそば立てた。何の事はないライブドアがフジサンケイグループに挑んだニッポン放送の買収劇だった。
 ナポレオンがロシアを攻めた時、ロシア側がモスクワを逃げ出してもぬけの殻にし、敵の意欲を挫いたのが「焦土作戦」。買収側とは別の友好的な会社に株式を保有してもらうのが「ホワイトナイト」。投資会社に貸し出される株は「クラウンジュエル」で「ポイズンビル」は敵対的買収に備える企業防衛策だ。
 今回の買収劇は、若くて野望を隠そうとしない既存のビジネスエリートが嫌うライブドアの堀江貴文社長が、時間外取引という手段でニッポン放送株を取得したのが発端。「公共性の性格が強い放送メディアを買収するとは不届き千万」と、メディアのバッシングは、“ホリエモン”に集中した。
 株式を公開して市場から資金を調達するメリットを享受している企業である以上、市場のリスクを負わないという訳には行かない。聖域はないはずだ。
 フジサンケイグループは、ライブドアを嫌いながら同じIT企業のソフトバンクを白馬の騎士に選び、メディアの公共性より経営者の保身が重要であることを証明した。また日立製作所がこのほど国内の大手企業で初めて毒薬条項の導入を検討し始めた。
 敵対的買収の経験に乏しく株主の権利が軽んじられてきた日本の企業社会は、米国より遅れる事20年の隔たりを一気に埋めようとしている。電子の回線を張り巡らせた21世紀の市場でのM&A「企業の合併・買収」劇の結末はいかに。(辰)

(17年4月18日号掲載)

 地球環境の守り「京都議定書」が2月16日に発効した。署名国84ヶ国、締約国125ヶ国でのスタート。二酸化炭素を世界で一番発生させている米国は離脱、世界の人口の一、ニ位を争う中国とインドは途上国で対象外、という片手落ち否抜け殻同然の代物だ。
 名前は議定書だが「地球温暖化を防止するための国際条約」である。97年12月に京都で採択されたので京都議定書と言う。
 地球温暖化の原因と成る温室効果ガスの内排出量が最も多い二酸化炭素を08年〜12年までに、先進国全体で5%削減する事が主たる目標。我が国は90年排出量の6%がノルマだ。
 今回の削減目標は排出量の削減であってその国にある温室効果ガスの全体量の削減ではない。つまり二酸化炭素濃度を現在のレベルで安定化させるための“緊急”措置で、それ以上踏み込めば政治的経済的反発を招く事が必定だから。自動車業界、石油業界に気を使う米国の離脱がこれを物語っている。
 他に森林吸収源の確保を掲げている。途上国で進んでいる地球規模の伐採に歯止めを掛けたいためだ。森林は二酸化炭素を吸収する大切な源。その確保は論を待たない。
 このほど環境大臣の諮問機関である中央環境審議会地球環境部会は、目標達成計画の答申案をまとめ、年間七千億円の追加的財政支出が必要と試算。財源確保のために「環境税」の創設も必要としているが、経済産業省が難色を示しているという。
 6%は百分の六。国民一人ひとりが百回の内六回、例えばマイカー通勤を電車なり自転車通勤に替えたら数字上は目標達成が可能に思えるのは吾だけだろうか。氷河期に絶滅したマンモスの二の舞にならないように、先ず自分から。(辰)

(17年4月4日号掲載)